内積の復習
二つの平面ベクトル\(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\)があるとき、これらの内積は次式で与えられることを高校数学で学んだ。
$$\boldsymbol{a}・\boldsymbol{b}=|\boldsymbol{a}||\boldsymbol{b}|\cos\theta$$
ただし、\(\theta\)は\(\boldsymbol{a}と\boldsymbol{b}\)がなす角で、\(0\le\theta\le\pi\)である。
また、これらの成分が
\[ \boldsymbol{a}=\left( \begin{array}{c} a_1 \\ a_2 \end{array} \right),\boldsymbol{b}=\left( \begin{array}{c} b_1 \\ b_2 \end{array} \right) \]
で与えられるとき、内積は
$$\boldsymbol{a} \cdot \boldsymbol{b} = \sum_{i=1}^2 a_i b_i=a_1b_1+a_2b_2$$
と計算することができた。
内積が満たすべき条件
上のような内積の計算は、実は単に「こう計算することにする」と定義しただけのものである。
ある性質(内積の公理)を満たす計算であれば、それを内積として定義することが可能である。
一般のn次元ベクトル
\[ \boldsymbol{a}=\left( \begin{array}{c} a_1 \\ a_2 \\ \vdots \\ a_n \end{array} \right),\boldsymbol{b}=\left( \begin{array}{c} b_1 \\ b_2 \\ \vdots \\ b_n \end{array} \right) \]
を考える。内積を\((\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})\)で表すこととする。
以下の性質をみたすものを、内積と呼ぶ。
(1)正値性
$$(\boldsymbol{a},\boldsymbol{a})\ge0$$
等号は\(\boldsymbol{a}=\boldsymbol{0}\)のときのみ成立
(2)対称性
$$(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})=(\boldsymbol{b},\boldsymbol{a})$$
(3)線形性
ある定数\(s,t\)とベクトル\(\boldsymbol{c}\)について
$$(s\boldsymbol{a}+t\boldsymbol{b},\boldsymbol{c})=s(\boldsymbol{a},\boldsymbol{c})+t(\boldsymbol{b},\boldsymbol{c})$$
標準内積
初めに示したような計算式で与えられる内積を、標準内積と呼ぶ。
$$(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})=\sum_{i=1}^n a_ib_i$$
この内積の定義は、上で与えた性質を満たす最も単純な式になっている。
これ以外の定義式でも、内積の性質を満たすものをつくることができる。
そうした内積を、標準でない内積という。演習問題で確認しよう。
演習問題:以下の定義は内積となるか
以下の定義式は、内積とすることができるかを判定せよ。
\((1) \displaystyle (\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})=\sum_{i=1}^n ia_ib_i =a_1b_1+2a_2b_2+3a_3b_3+\cdots+na_nb_n\)
\((2) \displaystyle (\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})=\sum_{i=1}^n i^2a_ib_i =a_1b_1+4a_2b_2+9a_3b_3+\cdots+n^2a_nb_n\)
それぞれの定義式が、正値性・対称性・線形性のすべてを満たすかどうかを確認する。
(解)
(1)
正値性:
$$(\boldsymbol{a},\boldsymbol{a})=\sum_{i=1}^n ia_ia_i=\sum_{i=1}^nia_i^2\ge0$$
対称性:
$$(\boldsymbol{b},\boldsymbol{a})=\sum_{i=1}^n ib_ia_i=b_1a_1+2b_2a_2+3b_3a_3+\cdots+nb_na_n=\sum_{i=1}^n ia_ib_i=(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})$$
線形性:
\[
\begin{align*}
(s\boldsymbol{a}+t\boldsymbol{b},\boldsymbol{c})&=\sum_{i=1}^n i(sa_i+tb_i)c_i \\
&=\sum_{i=1}^n i(sa_ic_i+tb_ic_i) \\
&=s\sum_{i=1}^n ia_ic_i+t\sum_{i=1}^n ib_ic_i \\
&=s(\boldsymbol{a},\boldsymbol{c})+t(\boldsymbol{b},\boldsymbol{c})
\end{align*}
\]
内積の性質をすべて満たすので、内積とすることができる。
(2)
正値性:
$$(\boldsymbol{a},\boldsymbol{a})=\sum_{i=1}^n i^2a_ia_i=\sum_{i=1}^ni^2a_i^2\ge0$$
対称性:
$$(\boldsymbol{b},\boldsymbol{a})=\sum_{i=1}^n i^2b_ia_i=\sum_{i=1}^n i^2a_ib_i=(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})$$
線形性:
\[
\begin{align*}
(s\boldsymbol{a}+t\boldsymbol{b},\boldsymbol{c})&=\sum_{i=1}^n i^2(sa_i+tb_i)c_i \\
&=\sum_{i=1}^n i^2(sa_ic_i+tb_ic_i) \\
&=s\sum_{i=1}^n i^2a_ic_i+t\sum_{i=1}^n i^2b_ic_i \\
&=s(\boldsymbol{a},\boldsymbol{c})+t(\boldsymbol{b},\boldsymbol{c})
\end{align*}
\]
内積の性質をすべて満たすので、内積とすることができる。
線形代数学 内積の定義と正値性・対称性・線形性について 特別な行列の名前と定義・性質の一覧 対称行列と反対称行列の性質・分解公式 行列のn乗の計算方法ー4つのパターン サラスの公式による行列式の計算方法 余因[…]