これから学ぶジョルダン標準形を形成する要素である、ジョルダン細胞(またはジョルダンブロック)について述べておく。
ジョルダン細胞の表し方と、n乗の計算について考えていく。
ジョルダン細胞とは
次の形で表される\(n\)次正方行列をジョルダン細胞といい、\(J(\lambda,n)\)とかく。
\[\left(
\begin{array}{cccc}
\lambda & 1 & & \boldsymbol{0} \\
& \lambda & \ddots & \\
& & \ddots & 1 \\
\boldsymbol{0} & & & \lambda
\end{array}
\right)\]
ジョルダン細胞は、対角成分が\(\lambda\)でその右上に\(1\)が乗った正方行列である。
\(n=1\)の場合、\(1×1\)行列になる。このとき、成分は\(\lambda\)のみである。
すべての\(1×1\)行列はジョルダン細胞であるということもできる。
\[J(\lambda,1)=\left(
\begin{array}{c}
\lambda
\end{array}
\right)\]
また、\(n=2,3\)の場合を具体的に書くと次のようになる。
\[J(\lambda,2)=\left(
\begin{array}{cc}
\lambda & 1 \\
0 & \lambda
\end{array}
\right),J(\lambda,3)=\left(
\begin{array}{ccc}
\lambda & 1 & 0 \\
0 & \lambda & 1 \\
0 & 0 & \lambda
\end{array}
\right)\]
また、\(\lambda=0\)の場合も当然だがあり得る。このとき、ジョルダン細胞は
\[J(0,3)=\left(
\begin{array}{ccc}
0 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 1 \\
0 & 0 & 0
\end{array}
\right)\]
という形になる。
このようなジョルダン細胞をいくつか対角に並べて作られる行列がジョルダン標準形である。例えば
\[\begin{align*}J&=\left(
\begin{array}{cccc}
J(\lambda_1,1) & & & \boldsymbol{0} \\
& J(\lambda_2,3) & & \\
& & J(\lambda_3,2) & \\
\boldsymbol{0} & & & J(\lambda_4,1)
\end{array}
\right) \\ &=\left(
\begin{array}{ccccccc}
\lambda_1 & & & & & & \boldsymbol{0} \\
& \lambda_2 & 1 & 0 & & & \\
& 0 & \lambda_2 & 1 & & & \\
& 0 & 0 & \lambda_2 & & & \\
& & & & \lambda_3 & 1 & \\
& & & & 0 & \lambda_3 & \\
\boldsymbol{0} & & & & & & \lambda_4 \\
\end{array}
\right)\end{align*}\]
のような形である。
ジョルダン標準形についてはまた別の記事で述べることとする。
ジョルダン細胞のn乗の計算
ジョルダン標準形を応用して、行列の\(n\)乗の計算をすることがある。
ジョルダン標準形の\(n\)乗は、構成する各ジョルダン細胞の\(n\)乗を計算することで求めることができる。
\[\left(
\begin{array}{ccc}
J(\lambda_1,n_1) & & \boldsymbol{0} \\
& \ddots & \\
\boldsymbol{0} & & J(\lambda_k,n_k)
\end{array}
\right)^n=\left(
\begin{array}{ccc}
\left(J(\lambda_1,n_1)\right)^n & & \boldsymbol{0} \\
& \ddots & \\
\boldsymbol{0} & & \left(J(\lambda_k,n_k)\right)^n
\end{array}
\right)\]
それでは、ジョルダン細胞の\(n\)乗はどう計算したらよいかを考えよう。
まず、ジョルダン細胞は次のように分解することができる。
\[\begin{align*}
J&=D+N \\
\left(
\begin{array}{cccc}
\lambda & 1 & & \\
& \lambda & \ddots & \\
& & \ddots & 1 \\
& & & \lambda
\end{array}
\right)&=\left(
\begin{array}{cccc}
\lambda & & & \\
& \lambda & & \\
& & \ddots & \\
& & & \lambda
\end{array}
\right)+\left(
\begin{array}{cccc}
0 & 1 & & \\
& 0 & \ddots & \\
& & \ddots & 1 \\
& & & 0
\end{array}
\right)
\end{align*}\]
\(D\)は対角行列、\(N\)はべき零行列になっている。
二項定理を用いると
\begin{align*}
J^n&=(D+N)^n \\
&={}_n\mathrm{C}_0 D^n+{}_n\mathrm{C}_1 D^{n-1}N^1+{}_n\mathrm{C}_2 D^{n-2}N^2+\cdots+{}_n\mathrm{C}_n N^n
\end{align*}
とかくことができる。
ここで登場した\(n\)次のべき零行列\(N\)は、べき乗すると1のあるラインが右上に上がっていき、\(n\)乗するとゼロ行列になる。
このことを考慮すると、次のようにまとめることができる。
ジョルダン細胞の\(n\)乗は
- 対角成分は\(\lambda^n\)
- その上の成分は\({}_n\mathrm{C}_1\lambda^{n-1}\)
- その更に上の成分は\({}_n\mathrm{C}_2\lambda^{n-2}\)
- \((1,n)\)成分に行きつくか\({}_n\mathrm{C}_n=1\)が出るまでこれを繰り返す
ことで求めることができる。
具体的な形をいくつか見てみよう。
\[J(\lambda,2)^n=\left(
\begin{array}{cc}
\lambda^n & n\lambda^{n-1} \\
0 & \lambda^n
\end{array}
\right)\]
\[J(\lambda,3)^n=\left(
\begin{array}{ccc}
\lambda^n & n\lambda^{n-1} & \frac{1}{2}n(n-1)\lambda^{n-2} \\
0 & \lambda^n & n\lambda^{n-1} \\
0 & 0 & \lambda^n
\end{array}
\right)\]
\[J(\lambda,4)^n=\left(
\begin{array}{cccc}
\lambda^n & n\lambda^{n-1} & \frac{1}{2}n(n-1)\lambda^{n-2} & \frac{1}{6}n(n-1)(n-2)\lambda^{n-3} \\
0 & \lambda^n & n\lambda^{n-1} & \frac{1}{2}n(n-1)\lambda^{n-2} \\
0 & 0 & \lambda^n & n\lambda^{n-1} \\
0 & 0 & 0 & \lambda^n
\end{array}
\right)\]
簡単な規則性があるので、覚えてしまおう。
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