2次形式の標準化を利用すると、二次曲線を明快に取り扱うことができるようになる。
この記事では、二次曲線の分類や標準形への変形、図形的意味などについて学んでいく。
2次形式の標準化について復習したい方は以下のリンクへ。
[mathjax] 対称行列の対角化の応用例のひとつとして、2次形式の行列表示および標準化について学ぶ。 2次形式の標準形を求めると、少し複雑な二次曲線が描けるほか、行列の符号の判定が簡単にできるようになる。 […]
二次曲線とは
方程式
$$ax^2+2bxy+cy^2+px+qy+r=0$$
が表す曲線を二次曲線という。
一般形のままではこの曲線の形がよくわからない。
この式に対して適切な変数変換を施すと、次のような形に変形することができる。
- 楕円:\(\displaystyle\frac{x^2}{a^2}+\frac{y^2}{b^2}=1\)
- 双曲線:\(\displaystyle\frac{x^2}{a^2}-\frac{y^2}{b^2}=1\)
- 放物線:\(y=ax^2\)
- 直線
- 点
二次曲線は上記のように分類される。ただし下二つは特殊な場合である。
二次曲線の式に現れる項について考えてみよう。
一次の項\(px,qy\)や定数項\(r\)は二次曲線の概形に本質的な影響を与えない。例えば
$$9x^2+4y^2-18x-16y-11=0$$
は、平方完成して整理すれば
$$\frac{(x-1)^2}{4}+\frac{(y-2)^2}{9}=1$$
となり、楕円を表すことがわかる。
このように、一次の項は二次曲線の平行移動に寄与するのみである。
二次曲線を特徴付けるのは、二次の項からなる\(ax^2+2bxy+cy^2\)の部分である。
特に\(xy\)の項は座標回転から生じる部分であり、高校数学の範囲で取り扱うことは難しい。
このような二次曲線を、2次形式の標準化で学んだ知識を利用して理解することを目指していく。
二次曲線の行列表示と標準化
変数変換により二次曲線の方程式を変形しよう。
まず、二次曲線は行列およびベクトルを用いて表すことができる。
\[A=\left(
\begin{array}{cc}
a & b \\
b & c
\end{array}
\right),B=\left(
\begin{array}{cc}
p & q
\end{array}
\right),\boldsymbol{x}=\left(
\begin{array}{c}
x \\
y
\end{array}
\right)\]
とすると、二次曲線の方程式\(ax^2+2bxy+cy^2+px+qy+r=0\)は
$$\boldsymbol{x}^TA\boldsymbol{x}+B\boldsymbol{x}+r=0 ・・・(*)$$
と表すことができる。
\(A\)は実対称行列なので、直交行列を用いて対角化が可能である。
\(A\)の固有値を\(\lambda_1,\lambda_2\)とする。このとき、\(P^{-1}AP\)が固有値を対角成分にもつ対角行列となるような直交行列\(P\)が存在する。
\[P^{-1}AP=P^TAP=\left(
\begin{array}{cc}
\lambda_1 & 0 \\
0 & \lambda_2
\end{array}
\right)\]
ここで、\(\boldsymbol{x}=P\boldsymbol{X}\)なる変数変換を考える。
\[\left(
\begin{array}{c}
x \\
y
\end{array}
\right)=P\left(
\begin{array}{c}
X \\
Y
\end{array}
\right)\]
すると
\begin{align*}
\boldsymbol{x}^TA\boldsymbol{x}&=(P\boldsymbol{X})^TA(P\boldsymbol{X}) \\
&=\boldsymbol{X}^T(P^TAP)\boldsymbol{X} \\
&=\left(
\begin{array}{cc}
X & Y
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{cc}
\lambda_1 & 0 \\
0 & \lambda_2
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{c}
X \\
Y
\end{array}
\right)
\end{align*}
また
$$B\boldsymbol{x}=BP\boldsymbol{X}=\left(
\begin{array}{cc}
p’ & q’
\end{array}
\right)\boldsymbol{X}$$
となるので、\((*)\)式は
$$\lambda_1X^2+\lambda_2Y^2+p’X+q’Y+r=0$$
と変形できる。
この式は\(XY\)の項を含まないので、平方完成すれば\(XY\)座標系における二次曲線の概形を判別することができる。
このように、\(xy\)のようなクロスターム項を含まない形の式を二次曲線の標準形という。
なお、二次の直交行列は回転行列に限られるため、\(XY\)座標系を\(\theta\)回転して\(xy\)座標系に戻せばもとの二次曲線を決定することができる。
- \(\boldsymbol{x}^TA\boldsymbol{x}+B\boldsymbol{x}+r=0\)の形で表す
- 実対称行列\(A\)を直交行列\(P\)により対角化する
- 座標変換\((\boldsymbol{x}=P\boldsymbol{X})\)して標準形を得る
二次曲線の標準形から、実対称行列\(A\)の固有値と二次曲線の概形について次の関係があることがわかる。
固有値 | 二次曲線の概形 |
2つの固有値が共に正または負 | 楕円 |
2つの固有値が正と負 | 双曲線 |
1つの固有値がゼロ | 放物線 |
さて、一般形で議論をしていても何をしているかが分かりにくいので、具体的な問題を解きながら手順を確認していこう。
演習問題
一次の項を持たない簡単な例を計算してみよう。
(解)
\[3x^2-2xy+3y^2=\left(
\begin{array}{cc}
x & y
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{cc}
3 & -1 \\
-1 & 3
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{c}
x \\
y
\end{array}
\right)=\boldsymbol{x}^TA\boldsymbol{x}\]
とかける。
実対称行列\(A\)を対角化する。\(A\)の固有方程式
\begin{align*}
\phi_A(\lambda)&=|A-\lambda E|=\left|
\begin{array}{cc}
3-\lambda & -1 \\
-1 & 3-\lambda
\end{array}
\right| \\
&=(3-\lambda)^2-1=(4-\lambda)(2-\lambda)=0
\end{align*}
から、固有値は\(\lambda=2,4\)である。
\(\lambda_1=2\)のとき
\begin{align*}
\left(
\begin{array}{cc}
1 & -1 \\
-1 & 1
\end{array}
\right)\boldsymbol{x}_1=\boldsymbol{0}
\end{align*}
から固有ベクトルは
\begin{align*}
\boldsymbol{x}_1=s\left(
\begin{array}{c}
1 \\
1
\end{array}
\right)
\end{align*}
となる。
\(\lambda_2=4\)のとき
\begin{align*}
\left(
\begin{array}{cc}
-1 & -1 \\
-1 & -1
\end{array}
\right)\boldsymbol{x}_2=\boldsymbol{0}
\end{align*}
から固有ベクトルは
\begin{align*}
\boldsymbol{x}_2=t\left(
\begin{array}{c}
-1 \\
1
\end{array}
\right)
\end{align*}
となる。
よって、正規直交基底として
\begin{align*}
\boldsymbol{p}_1=\frac{1}{\sqrt{2}}\left(
\begin{array}{c}
1 \\
1
\end{array}
\right),\boldsymbol{p}_2=\frac{1}{\sqrt{2}}\left(
\begin{array}{c}
-1 \\
1
\end{array}
\right)
\end{align*}
をとることができ、直交行列\(P=(\boldsymbol{p}_1,\boldsymbol{p}_2)\)を用いて
\[P^TAP=\left(
\begin{array}{cc}
2 & 0 \\
0 & 4
\end{array}
\right)\]
と対角化できる。
さらに\(\boldsymbol{x}=P\boldsymbol{X}\)と変数変換すると
\begin{align*}
3x^2-2xy+3y^2&=\boldsymbol{X}^T(P^TAP)\boldsymbol{X} \\
&=\left(
\begin{array}{cc}
X & Y
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{cc}
2 & 0 \\
0 & 4
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{c}
X \\
Y
\end{array}
\right) \\
&=2X^2+4Y^2
\end{align*}
したがって、この二次曲線の標準形は
$$2X^2+4Y^2-4=0 ⇔ \frac{X^2}{2}+Y^2=1$$
となり、楕円を表す。
また、\(P\)は
\[P=\frac{1}{\sqrt{2}}\left(
\begin{array}{cc}
1 & -1 \\
1 & 1
\end{array}
\right)=\left(
\begin{array}{cc}
\displaystyle\cos\frac{\pi}{4} & \displaystyle-\sin\frac{\pi}{4} \\
\displaystyle\sin\frac{\pi}{4} & \displaystyle\cos\frac{\pi}{4}
\end{array}
\right)\]
より、\(\theta=\displaystyle\frac{\pi}{4}\)の回転を表す行列なので、元の二次曲線は\(XY\)平面上の楕円\(\displaystyle\frac{X^2}{2}+Y^2=1\)を原点中心に\(\displaystyle\frac{\pi}{4}\)だけ回転した曲線である。
一次の項がある場合は、行列\(B\)が増えるだけで大筋はほとんど同じ計算になる。
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