離散フーリエ変換
ここまで、フーリエ変換の数学的な理論について学んできた。
実際にフーリエ変換を応用する場合には、現実の信号を有限の時間で測定し、離散的なデータを元にコンピュータを用いて計算しなくてはならない。
これから、そのための手法である「離散フーリエ変換」について学んでいく。
サンプリング定理とは
サンプリング
連続信号\(g(t)\)を時刻\(t=\cdots -2\Delta t,-\Delta t,0,\Delta t,2\Delta t,\cdots\)において観測するとする。
このように、離散的な時刻にデータを取得することを、サンプリングという。データの取得間隔\(\Delta t\)をサンプリング周期といい、その逆数\(1/\Delta t\)をサンプリング周波数と呼ぶ。サンプリング周波数を\(f_s\)と書くこととする。
例えば、音楽CDのサンプリング周波数は\(f_s=44.1kHz\)であり、サンプリング周期は\(\Delta t=1/44.1≒0.023ms\)である。
連続信号\(g(t)\)のフーリエ変換\(G(f)\)が存在するとき、これを離散的な時刻\(t=t_k (k=0, \pm1, \pm2, \cdots)\)に対する信号の値\(g(t_k)\)から推定することを目指す。
ナイキスト周波数
まず、以下の事実が知られている。
サンプリング周期\(\Delta t\)でサンプリングされた離散的なデータ\(g(t_k)\)から求めたフーリエ変換\(G_s(f)\)は、周波数軸上で周期\(1/\Delta t (=f_s)\) の周期関数となる。
いま、元の連続関数\(g(t)\)のフーリエ変換\(G(f)\)を知るために、サンプリングされたデータから\(G_s(f)\)を求めたとする。
すると、\(G_s(f)\)のうち信頼できるのは、\(-f_s/2≦f≦f_s/2\)の区間における\(G_s(f)\)のみということである。そこで
をナイキスト周波数と呼び、離散フーリエ変換を考える際に重要な指標である。
※連続関数\(g(t)\)のフーリエ変換\(G(f)\)が大きな\(|f|\)に対して十分早く0に収束すると仮定する。
この収束が遅い場合、エイリアシングという現象が起こり、離散データ\(g(t_k)\)に対するフーリエ変換\(G_s(f)\)が元の関数のフーリエ変換\(G(f)\)からずれてしまうことがある。
サンプリング定理
いま、元の信号\(g(t)\)のフーリエ変換\(G(f)\)がナイキスト周波数\(f_c\)より大きい範囲においても0ではない値をとるとする。
このような状況で離散的なデータ\(g(t_k)\)からフーリエ変換\(G_s(f)\)を求めると、元のスペクトルを\(f_s\)周期で足し合わせたものが\(G_s(f)\)として現れてしまい、正しいスペクトル\(G(f)\)を得ることができない。
このときに正しいスペクトル\(G(f)\)を求めるためには、ナイキスト周波数\(f_c\)が広い周波数範囲をカバーできるようにすればよい。
すなわち、\(f_c=1/2\Delta t\)なので、サンプリング周期を短くしてデータを取り直せばよい。
このことをまとめると、次のように表せる。
連続信号\(g(t)\)のフーリエ変換\(G(f)\)が、ある周波数\(f_c\)に対して周波数範囲\(|f|>f_c\)で0となる(とみなせる)場合、元の\(g(t)\)を\(\Delta t=1/2f_c\)のサンプリング周期でサンプリングすれば、離散データ\(g(t_k)\)のフーリエ変換\(G_s(f)\)は\(-f_c\lt f\lt f_c\)の周波数範囲で\(G(f)\)に一致する。
これをサンプリング定理(または標本化定理)と呼ぶ。
定理の導出は以下の記事へ
離散データのフーリエ変換とサンプリング定理(標本化定理)の導出
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