前回の記事では、実数の四則演算と大小関係に関する話をしました。これらふたつの性質は、有理数においても成立します。
今回は、有理数では成立しない実数に固有の性質について紹介していきます。まずは準備として、「有界」という概念から始めます。
有界と最大値・最小値
\(\mathbb{R}\)の部分集合\(E\)に対し、ある実数\(K\)があり、\(x≦K (x\in E)\)を満たすとする。
このとき\(E\)は上に有界であるといい、\(K\)を\(E\)の上界と呼ぶ。
さて、有界やら上界やら新しい単語が登場しましたが、難しい概念ではありません。例えば、\(E\)を0以上1以下の集合とすると、
$$x≦2 (x\in E)$$
が成立するので、\(E\)は上に有界で2は\(E\)の上界です。
上界とは、その集合のどの元よりも大きい実数のことであり、そんな実数があるなら集合は上に有界ですよと言っているだけですね。
同じようにして下に有界、下界も定義することができます。上にも下にも有界であるとき、単に有界である、といいます。
\(E\)に属する数のうち最大(最小)な数があるとき、その数を\(E\)の最大値(最小値)といい、
$$\max E(\min E)$$
とかく。このとき\(\max E\)は\(E\)の上界であるので、\(E\)は上に有界である。
逆に、\(E\)が上に有界であっても、\(\max E\)が存在するとは限らない。
等号が成立するときの値が最大値であり、ひとつの上界になっています。
\(E_1=[0, 1]\), \(E_2=(0, 1)\), \(E_3=\{x\in \mathbb{Q}│0<x<1\}\)
とおくと、最大値・最小値を持つのは\(E_1\)のみ
上限・下限の定義
上限
前項の\(E_1, E_2, E_3\)の中で最大値を持つのは\(E_1\)だけですが、”1″は\(E_2, E_3\)に対しても最大値によく似た性質を持っています。
そこで、最大値の概念を次のように拡張します。
\(E\subset \mathbb{R}\)に対して、次の1), 2)を満たす数\(\alpha\)を考える。
1) \(x \le \alpha (x \in E)\)
2) \(\gamma<\alpha\)ならば、\(\gamma<x\)を満たす\(x\)が\(E\)の中に存在する
この\(\alpha\)を\(E\)の上限といい、\(\sup E\)と表す。
1)は\(\alpha\)が\(E\)の上界であることを示しています。2)は\(\alpha\)より小さい数をとると、それより大きい元が存在して\(E\)の上界にはなり得ないことを表現しています。
すなわち、Eの上限とはEの最小の上界です。
supは「supremum(上限)」の意です。
\(\mathbb{Q}\)において、上に有界な集合は必ずしも上限を持たない。
たとえば\(E=\{x\in \mathbb{Q}│x>0かつx^2<2\}\)とすると、
①二乗して2になる数\(\sqrt{2}\)は無理数であり、有理数の範囲では存在しない
②二乗して2に近い有理数は無数に存在する
ため、supEは存在しません。
下限
\(E\subset \mathbb{R}\)に対して、次の1), 2)を満たす数\(\beta\)を考える。
1) \(\beta \le x (x \in E)\)
2) \(\beta<\gamma\)ならば、\(x<\gamma\)を満たす\(x\)が\(E\)の中に存在する。
この\(\beta\)を\(E\)の下限といい、\(\inf E\)と表す。
infは「infimum(下限)」の意です。
下限は最大の下界です。
\(E\)が下に有界ならば、\(-E=\{-x│x\in \mathbb{E}\}\)は上に有界となり、\(\inf E=-\sup (-E)\)より、\(E\)の下限は必ず存在する。
(C)実数の連続性
有理数の場合は、有界であっても上限を持つとは限らないことを確認しました。一方、実数の場合は有界であれば上限・下限を持ちます。
よって実数の連続性を次のように表現することができます。
実数の集合が上に有界ならば、必ず上限を持つ。下に有界ならば、必ず下限を持つ。
線形代数学 内積の定義と正値性・対称性・線形性について 特別な行列の名前と定義・性質の一覧 対称行列と反対称行列の性質・分解公式 行列のn乗の計算方法ー4つのパターン サラスの公式による行列式の計算方法 余因[…]