これまでの記事で、ベクトルの一次独立や行列の基本変形、連立方程式の解法について学んできた。
今回は、行列の基本的な特徴量のひとつであるランクについて学ぶ。
行列のランク(行列の階数とも)は、逆行列の存在や連立方程式の解の性質などとも関係が深く、重要な量である。
行列のランクの計算方法と応用について、具体例を用いて計算をしながら理解していく。
行列のランクの定義
行列のランクには複数の定義の流儀がある。いくつか紹介するが、いずれも同値であるためどれを選んでも構わない。
行列\(A\)のランクを\(\mathrm{rank}A\)と書き、以下で与えられる。
- \(A\)を基本変形して階段行列にしたとき、零ベクトルではない行の数
- \(A\)の小行列式が0でない、最大のサイズ
- \(A\)の一次独立な行ベクトルの最大個数
- \(A\)の一次独立な列ベクトルの最大個数
- \(A\)の特異値の数(特異値:\(AA^T\)または\(A^TA\)の0でない固有値の正の平方根)
行列のランクを求める場合に実用的に用いられることの多い一番目の定義の計算方法を示す。
基本変形によるランクの計算
行列\(A\)を基本変形して
\[\begin{align*}A&=\left(
\begin{array}{cccc}
a_{11} & a_{12} & \ldots & a_{1n} \\
a_{21} & a_{22} & \ldots & a_{2n} \\
\vdots & \vdots & & \vdots \\
a_{n1} & a_{n2} & \ldots & a_{nn}
\end{array}
\right) \\&\longmapsto\left(
\begin{array}{ccccc}
{a_{11}}’ & {a_{12}}’ & {a_{13}}’ & \ldots & {a_{1n}}’ \\
0 & {a_{22}}’ & {a_{23}}’ & \ldots & {a_{2n}}’ \\
0 & 0 & {a_{23}}’ & \ldots & {a_{3n}}’ \\
\vdots & \vdots & \vdots & & \vdots \\
0 & 0 & 0 & \ldots & {a_{rn}}’ \\
0 & 0 & 0 & \ldots & 0
\end{array}
\right)
\end{align*}\]
のように階段行列としたときに、\(1~r\)行目までは各行に少なくとも1つゼロではない成分があり、\(r+1\)行目以降はすべてゼロになったとする。
このとき、行列\(A\)のランクは\(r\)であるといい
$$\mathrm{rank}A=r$$
とかく。
具体的な計算例をみてみよう。
例題
次の行列\(A\)のランクを求めよ。
\[\left(\begin{array}{ccc}
1 & 2 & 1 \\
2 & 3 & 3 \\
-1 & 1 & 4
\end{array}\right)\]
(解)
基本変形により階段行列をつくる。
\[\begin{align*}\left(\begin{array}{ccc}
1 & 2 & 1 \\
2 & 3 & 3 \\
-1 & 1 & 4
\end{array}
\right) & \longmapsto \left(
\begin{array}{ccc}
1 & 2 & 1 \\
0 & -1 & 1 \\
0 & 3 & 5
\end{array}
\right) \\& \longmapsto \left(
\begin{array}{ccc}
1 & 2 & 1 \\
0 & 1 & -1 \\
0 & 3 & 5
\end{array}
\right) \\& \longmapsto \left(
\begin{array}{ccc}
1 & 2 & 1 \\
0 & 1 & -1 \\
0 & 0 & 8
\end{array}
\right)
\end{align*}\]
$$∴\mathrm{rank}A=3$$
ランクの性質
行列のランクが表す性質をまとめておく。
1.ランクと行列式
\((ⅰ) \mathrm{rank}A=n \Leftrightarrow A\)は正則である\((|A|\not=0)\)
\((ⅱ) \mathrm{rank}A \lt n \Leftrightarrow A\)は正則でない\((|A|=0)\)
行列の基本変形と行列式の関係についてはこちらの記事を参照のこと。
2.ランクと連立方程式の解
連立一次方程式\(A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b}\)について、右辺の\(\boldsymbol{b}\)が零ベクトルの場合を同次連立一次方程式または斉次連立一次方程式という。これに対して、\(\boldsymbol{b}\not=\boldsymbol{0}\)の場合を非同次連立一次方程式または非斉次連立一次方程式という。
同次方程式おいては、\(\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\)は明らかに解である。これを自明解という。これに対して、\(\boldsymbol{x}\not=\boldsymbol{0}\)であるような解が存在するとき、これを非自明解という。
2.1 同次連立一次方程式
\((ⅰ) A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\)の実質的な方程式の数は\(\mathrm{rank}A\)に等しい
\(自由度=未知数の数-\mathrm{rank}A\)とする。
\((ⅱ) 自由度\gt0\)のとき、方程式は非自明解を持つ
\((ⅲ) 自由度=0\)のとき、方程式は自明解のみを持つ
同次方程式の場合は、自由度の数だけ任意の値を文字で置く必要がある。
2.2 非同次連立一次方程式
拡大係数行列のランクを、\(\mathrm{rank}(A,\boldsymbol{b})\)とかくことにする。
\((ⅰ) \mathrm{rank}A\lt\mathrm{rank}(A,\boldsymbol{b})\)のとき、解は存在しない
\((ⅱ) \mathrm{rank}A=\mathrm{rank}(A,\boldsymbol{b})\)ならば、解が存在する
\(自由度=未知数の数-\mathrm{rank}(A,\boldsymbol{b})\)とする。
\((ⅲ) 自由度\gt0\)のとき、方程式は不定解を持つ
\((ⅳ) 自由度=0\)のとき、方程式はただ一組の解を持つ
ここで述べた性質を使う問題を解きながら、使い方を理解しよう。
演習問題
次の連立一次方程式が自明解な解以外の解を持つように\(a\)の値を定めよ。
\[\begin{cases}
ax + 2y = 0 \\
3x + (a+1)y = 0
\end{cases}\]
(解)
係数行列を\(A\)とおく。
\[
A=\left(
\begin{array}{cc}
a & 2 \\
3 & a+1
\end{array}
\right)
\]
\[
|A|=\left|
\begin{array}{cc}
a & 2 \\
3 & a+1
\end{array}
\right| = a(a+1) – 6 = (a-2)(a+3)
\]
同次連立一次方程式が自明でない解をもつ条件は、\(|A|=0\)である。
したがって、\(a=2, -3\)
実際、\(a=2,-3\)のときは2つの式が一致するため、直線上の点がすべて解になる。
次の連立一次方程式を解け。
\[(1) \begin{cases}
3x_1 + 2x_2 – x_3 = 3 \\
4x_1 – 5x_2 + 3x_3 = 5 \\
x_1 + 16x_2 – 9x_3 = 1
\end{cases} ,(2) \begin{cases}
x_1 – x_2 + 2x_3 -3x_4 = 1 \\
-2x_1 + x_2 + x_3 -4x_4 = -6 \\
3x_1 – 5x_2 + 16x_3 – 29x_4 = -5
\end{cases}\]
(解)
掃き出し法を用いる。
\((1)\)
\[\begin{align*}
\left(
\begin{array}{ccc|c}
3 & 2 & -1 & 3 \\
4 & -5 & 3 & 5 \\
1 & 16 & -9 & 1
\end{array}
\right) &\longmapsto \left(
\begin{array}{ccc|c}
1 & 16 & -9 & 1 \\
3 & 2 & -1 & 3 \\
4 & -5 & 3 & 5
\end{array}
\right) \\ &\longmapsto \left(
\begin{array}{ccc|c}
1 & 16 & -9 & 1 \\
0 & -46 & 26 & 0 \\
0 & -69 & 39 & 1
\end{array}
\right) \\ &\longmapsto \left(
\begin{array}{ccc|c}
1 & 16 & -9 & 1 \\
0 & -23 & 13 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 1
\end{array}
\right)
\end{align*}\]
すなわち
\[\begin{cases}
\mathrm{rank}A = 2 \\
\mathrm{rank}(A,\boldsymbol{b}) = 3
\end{cases}\]
であり、両者が一致しないため、この連立一次方程式の解はない。
\((2)\)
\[\begin{align*}
\left(
\begin{array}{cccc|c}
1 & -1 & 2 & -3 & 1 \\
-2 & 1 & 1 & -4 & -6 \\
3 & -5 & 16 & -29 & -5
\end{array}
\right) &\longmapsto \left(
\begin{array}{cccc|c}
1 & -1 & 2 & -3 & 1 \\
0 & -1 & 5 & -10 & -4 \\
0 & -2 & 10 & -20 & -8
\end{array}
\right) \\ &\longmapsto \left(
\begin{array}{cccc|c}
1 & 0 & -3 & 7 & 5 \\
0 & 1 & -5 & 10 & 4 \\
0 & 0 & 0 & 0 & 0
\end{array}
\right)
\end{align*}\]
\(\mathrm{rank}A = \mathrm{rank}(A,\boldsymbol{b}) = 2\)なので、解が存在する。
ただし、\(自由度=n-\mathrm{rank}A=4-2=2\)より、2個の未知数を持つ。
\[\begin{cases}
x_1 = 5 + 3\lambda -7\mu \\
x_2 = 4 + 5\lambda -10\mu \\
x_3 = \lambda \\
x_4 = \mu
\end{cases} (\lambda,\muは任意)\]
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