微分演算子法とは、微分方程式の特殊解を代数的な計算で求める方法である。
微分演算子の定義
上式で定義されるDを、微分演算子と呼ぶ。
このDを用いると、微分を次のように表すことができる。
$$y’=\frac{d}{dx}y=D[y]$$
微分方程式は次のように書き換えることができる。
\[
\begin{align*}
y^{\prime\prime}+ay’+by&=F(x) \\
\frac{d^2}{dx^2}y+a\frac{d}{dx}y+by&=F(x) \\
(D^2+aD+b)[y]&=F(x) \\
f(D)[y]&=F(x)
\end{align*}
\]
Dを作用させることが微分を表す。その逆演算である積分を、1/Dを作用させることで表現できる。
$$y=\frac{F(x)}{f(D)}=\int F(x)dx$$
この微分演算子を用いて微分方程式の解を求めることを微分演算子法という。
微分演算子は、計算を楽にするためのツール・テクニックである。
微分演算子の基本公式
微分演算子を実際に用いるための計算公式を導いておく。
\[
\begin{align*}
(ⅰ) &\frac{1}{f(D)}e^{\alpha x}=\frac{1}{f(\alpha)}e^{\alpha x} (ただし、f(\alpha)\ne0) \\
(ⅱ) &\frac{1}{f(D)}F(x)=e^{\alpha x}\frac{1}{f(D+\alpha)}e^{-\alpha x}F(x)
\end{align*}
\]
(証明)
(ⅰ)
Dは微分を表すので、指数関数の微分について
である。右辺の係数のみ変化するので、これをf(α)とかけば
$$f(D)[e^{\alpha x}]=f(\alpha)e^{\alpha x}$$
$$∴\frac{1}{f(\alpha)}e^{\alpha x}=\frac{1}{f(D)}e^{\alpha x}$$
(ⅱ)
与式は次のように書き直せる。
$$f(D)[e^{\alpha x}F(x)]=e^{\alpha x}f(D+\alpha)F(x)$$
この式を示す。f(D)を簡単なものから計算してみると
\[
\begin{align*}
D[e^{\alpha x}F(x)]&=\alpha e^{\alpha x}F(x)+e^{\alpha x}D[F(x)] \\
&=e^{\alpha x}(D+\alpha)F(x)
\end{align*}
\]
\begin{align*}
D^2[e^{\alpha x}F(x)]&=D[e^{\alpha x}(D+\alpha)F(x)] \\
&=\alpha e^{\alpha x}(D+\alpha)F(x)+e^{\alpha x}(D^2+\alpha D)F(x) \\
&=e^{\alpha x}(\alpha D+\alpha^2)F(x)+e^{\alpha x}(D^2+\alpha D)F(x) \\
&=e^{\alpha x}(D+\alpha)^2F(x)
\end{align*}
\]
$$…$$
$$D^n[e^{\alpha x}F(x)]=e^{\alpha x}(D+\alpha)^nF(x)$$
よって、微分の線形性から
$$f(D)[e^{\alpha x}F(x)]=e^{\alpha x}f(D+\alpha)F(x)$$
がいえる。これより、
$$\frac{1}{f(D)}F(x)=e^{\alpha x}\frac{1}{f(D+\alpha)}e^{-\alpha x}F(x)$$
(証明終)
(ⅱ)について、f(D)=Dのときは特に
$$\frac{1}{D}F(x)=e^{\alpha x}\frac{1}{D+\alpha}e^{-\alpha x}F(x)$$
両辺にe^(αx)をかけ、α⇒-αと置き換えて整理すると
例題
実際に特殊解を計算してみよう。
(解)
公式(ⅰ)を利用する。
$$f(D)=D^2+D+1$$
$$f(\alpha)=\alpha^2+\alpha+1=3^2+3+1=13$$
求める特殊解は
$$y=\frac{e^{3x}}{f(D)}=\frac{e^{3x}}{f(\alpha)}=\frac{1}{13}e^{3x}$$
(解)
公式(ⅱ)を利用する。
$$f(D)=(D-5)$$
より、
$$(D-5)[y]=xe^{5x}$$
求める特殊解は
\[
\begin{align*}
y&=\frac{1}{D-5}[xe^{5x}] \\
&=e^{5x}\frac{1}{D}[x] \\
&=\frac{1}{2}x^2e^{5x}
\end{align*}
\]
展開公式
$$\frac{1}{1-aD}=1+aD+a^2D^2+a^3D^3+・・・$$
(証明)
関数のマクローリン展開による。
$$\frac{1}{1-x}=1+x+x^2+・・・$$
x=aDを代入して、公式を得る。
(証明終)
例題
(解)
部分分数分解を利用する。
\begin{align*}
y&=\frac{1}{D^2-2D-3}[x+1] \\
&=\frac{1}{(D+1)(D-3)}[x+1]=-\frac{1}{3}\frac{1}{(1+D)(1-D/3)}[x+1] \\
&=-\frac{1}{3}\frac{1}{1+D}\left(1+\frac{D}{3}+\frac{D^2}{9}+・・・\right)[x+1] \\
&=-\frac{1}{3}\frac{1}{1+D}\left\{(x+1)+\frac{1}{3}\right\} \\
&=-\frac{1}{3}(1-D+D^2-・・・)\left[x+\frac{4}{3}\right] \\
&=-\frac{1}{3}\left\{\left(x+\frac{4}{3}\right)-1\right\} \\
&=-\frac{1}{3}\left(x+\frac{1}{3}\right)=-\frac{1}{3}x-\frac{1}{9}
\end{align*}
\]
求める特殊解は
$$y=-\frac{1}{3}x-\frac{1}{9}$$
複素数を含む公式
\[
\begin{align*}
\frac{1}{f(D)}[ke^{i\alpha x}]&=\zeta(x)+i\eta(x)ならば、 \\
\frac{1}{f(D)}[k\cos\alpha x]&=\zeta(x),\frac{1}{f(D)}[k\sin\alpha x]=\eta(x)
\end{align*}
\]
(証明)
オイラーの公式を用いる。
$$e^{ix}=\cos x+i\sin x$$
より
$$\frac{1}{f(D)}[ke^{i\alpha x}]=\frac{1}{f(D)}[k\cos\alpha x+ik\sin\alpha x]$$
よって
となる。上式の実部と虚部を比較して、公式を得る。
(証明終)
例題
(解)
$$y=\frac{1}{D^2-D+1}[\cos 2x]$$
このままでは計算できないので、指数関数の形で計算してから求める。
\begin{align*}
\frac{1}{D^2-D+1}[e^{2ix}]&=\frac{1}{(2i)^2-(2i)+1}e^{2ix} (∵公式(ⅰ)) \\
&=\frac{-3+2i}{11}e^{2ix}=\frac{-3+2i}{11}(\cos 2x+i\sin 2x) \\
&=-\frac{3}{11}\cos 2x-\frac{2}{11}\sin 2x+i\left(\frac{2}{11}\cos 2x-\frac{3}{11}\sin 2x\right)
\end{align*}
\]
よって、求める特殊解は
$$y=-\frac{3}{11}\cos 2x-\frac{2}{11}\sin 2x$$
この公式を使えば、三角関数を含む場合の計算ができる。