余因子と余因子行列については以前の記事で学んだ。
ややこしい計算をしてまで余因子を計算したのは、行列式や逆行列を求めるときに利用できるからである。
ここでは余因子を用いて行列式を求める方法を説明し、例を用いて具体的に計算してみる。
さらに、行列の基本変形と行列式の値の関係を利用して計算量を減らすことを考える。
余因子展開
\(n\)次正方行列\(A=(a_{ij})\)とその余因子\(A_{ij}\)について
$$|A|=\sum_{j=1}^n a_{ij}A_{ij}$$
が成り立つ。これを、第\(i\)行に関する余因子展開と呼ぶ。同様に
$$|A|=\sum_{i=1}^n a_{ij}A_{ij}$$
が成り立つ。これを、第\(j\)列に関する余因子展開と呼ぶ。
余因子展開を用いると、行列の次元をひとつ下げることができる。
証明
第\(i\)行を次のような一次結合で表す。
\[\begin{align*}\left(
\begin{array}{c}
a_{i1} & \cdots & a_{ij} & \cdots & a_{in}
\end{array}
\right)&=a_{i1}\left(
\begin{array}{c}
1 & \cdots & 0 & \cdots & 0
\end{array}
\right) \\ &~~~~~+\cdots+a_{ij}\left(
\begin{array}{c}
0 & \cdots & 1 & \cdots & 0
\end{array}
\right) \\ &~~~~~~~+\cdots+a_{in}\left(
\begin{array}{c}
0 & \cdots & 0 & \cdots & 1
\end{array}
\right)\end{align*}
\]
行列式の多重線形性より
\[\begin{align*}
A = \left|
\begin{array}{ccccc}
a_{11} & \ldots & a_{1j} & \ldots & a_{1n} \\
\vdots & & \vdots & & \vdots \\
a_{i1} & \ldots & a_{ij} & \ldots & a_{in} \\
\vdots & & \vdots & & \vdots \\
a_{n1} & \ldots & a_{nj} & \ldots & a_{nn}
\end{array}
\right| &=a_{i1}\left|
\begin{array}{ccccc}
a_{11} & \ldots & a_{1j} & \ldots & a_{1n} \\
\vdots & & \vdots & & \vdots \\
1 & \ldots & 0 & \ldots & 0 \\
\vdots & & \vdots & & \vdots \\
a_{n1} & \ldots & a_{nj} & \ldots & a_{nn}
\end{array}
\right| \\ &~~~+\cdots+a_{ij}\left|
\begin{array}{ccccc}
a_{11} & \ldots & a_{1j} & \ldots & a_{1n} \\
\vdots & & \vdots & & \vdots \\
0 & \ldots & 1 & \ldots & 0 \\
\vdots & & \vdots & & \vdots \\
a_{n1} & \ldots & a_{nj} & \ldots & a_{nn}
\end{array}
\right| \\ &~~~+\cdots+a_{in}\left|
\begin{array}{ccccc}
a_{11} & \ldots & a_{1j} & \ldots & a_{1n} \\
\vdots & & \vdots & & \vdots \\
0 & \ldots & 0 & \ldots & 1 \\
\vdots & & \vdots & & \vdots \\
a_{n1} & \ldots & a_{nj} & \ldots & a_{nn}
\end{array}
\right|
\end{align*}\]
となる。
右辺第\(j\)番目の項について
\[a_{ij}\left|
\begin{array}{ccccc}
a_{11} & \ldots & a_{1j} & \ldots & a_{1n} \\
\vdots & & \vdots & & \vdots \\
0 & \ldots & 1 & \ldots & 0 \\
\vdots & & \vdots & & \vdots \\
a_{n1} & \ldots & a_{nj} & \ldots & a_{nn}
\end{array}
\right|=a_{ij}(-1)^{i+j}|A_{ij}|=a_{ij}A_{ij}
\]
が成り立つので、次式を得る。
$$|A|=a_{i1}A_{i1}+\cdots+a_{ij}A_{ij}+\cdots+a_{in}A_{in}=\sum_{j=1}^n a_{ij}A_{ij}$$
これが第\(i\)行に関する余因子展開である。列に関しても同様。
例題
余因子展開を用いて、3次正方行列の行列式を計算してみる。
次の行列式の値を求めよ。
\[
A=\left(
\begin{array}{ccc}
2 & 1 & 3 \\
-1 & 5 & 2 \\
4 & 1 & -1
\end{array}
\right)
\]
(解)
第1行に関して余因子展開すると
\[\begin{align*}
|A|&=\left|
\begin{array}{ccc}
2 & 1 & 3 \\
-1 & 5 & 2 \\
4 & 1 & -1
\end{array}
\right|\\&=2・(-1)^2\left|
\begin{array}{cc}
5 & 2 \\
1 & -1
\end{array}
\right|+1・(-1)^3\left|
\begin{array}{cc}
-1 & 2 \\
4 & -1
\end{array}
\right|+3・(-1)^4\left|
\begin{array}{cc}
-1 & 5 \\
4 & 1
\end{array}
\right|\\&=2\times(-7)-1\times(-7)+3\times(-21)\\&=-70
\end{align*}\]
サラスの公式を用いても、同じ結果を得ることができる。
この例題からもわかる通り、ワンサイズ小さい行列式を複数計算する必要があり、大変である。
3次であればまだ計算できるが、4次以上ともなるとどれほどの計算量になるか想像がつくことだろう。
計算量を減らすために、次のような操作を導入する。
行列の基本変形と行列式
ある行列について、行や列に対する以下のような操作を行基本変形または列基本変形という。
- 2つの行(列)を入れ替える
- ある行(列)に0でないスカラーをかける
- ある行(列)をスカラー倍したものを他の行(列)にかける
この方法は、行列のランクや逆行列を求める際にも利用される。
行列の基本変形と行列式に間には、次の関係が成り立つ。
\(n\)次正方行列に対して
(ⅰ)2つの行(列)を入れ替えると、行列式は\(-1\)倍される
(ⅱ)ある行(列)を\(c\)倍すると、行列式も\(c\)倍される
(ⅲ)ある行(列)を\(c\)倍したものを他の行(列)に加えても行列式は変わらない
特に\(c=0\)を考えると、ある行または列の成分がすべて0であれば行列式は0でなる。
この性質を利用して、上の例題で求めた行列式を計算してみる。
\[\begin{align*}
\left|
\begin{array}{ccc}
2 & 1 & 3 \\
-1 & 5 & 2 \\
4 & 1 & -1
\end{array}
\right| &=-\left|
\begin{array}{ccc}
1 & 2 & 3 \\
5 & -1 & 2 \\
1 & 4 & -1
\end{array}
\right| (第1列と第2列を入れ替える) \\ &=-\left|
\begin{array}{ccc}
1 & 2 & 3 \\
0 & -11 & -13 \\
1 & 4 & -1
\end{array}
\right| (第1行の-5倍を第2行に加える)\\&=-\left|
\begin{array}{ccc}
1 & 2 & 3 \\
0 & -11 & -13 \\
0 & 2 & -4
\end{array}
\right| (第1行の-1倍を第3行に加える) \\ &=-(-1)^{1+1}\left|
\begin{array}{cc}
-11 & -13 \\
2 & -4
\end{array}
\right| (第1列に関する余因子展開)\\ &=-70
\end{align*}\]
4次正方行列の行列式の計算をしてみよう。
演習問題
次の行列式の値を求めよ。
\[
\left|
\begin{array}{cccc}
2 & -5 & 4 & 3 \\
3 & -4 & 7 & 5 \\
4 & -9 & 8 & 5 \\
-3 & 2 & -5 & 3
\end{array}
\right|
\]
(解)
\[\begin{align*}
\left|
\begin{array}{cccc}
2 & -5 & 4 & 3 \\
3 & -4 & 7 & 5 \\
4 & -9 & 8 & 5 \\
-3 & 2 & -5 & 3
\end{array}
\right| &=\left|
\begin{array}{cccc}
2 & -5 & 4 & 3 \\
1 & 1 & 3 & 2 \\
4 & -9 & 8 & 5 \\
-3 & 2 & -5 & 3
\end{array}
\right| (第2行-第1行)\\ &=\left|
\begin{array}{cccc}
2 & -7 & -2 & -1 \\
1 & 0 & 0 & 0 \\
4 & -13 & -4 & -3 \\
-3 & 5 & 4 & 9
\end{array}
\right| ((2,1)成分で第2行の掃き出し)\\ &=-\left|
\begin{array}{ccc}
-7 & -2 & -1 \\
-13 & -4 & -3 \\
5 & 4 & 9
\end{array}
\right| (第2行に関する余因子展開)\\ &=2\left|
\begin{array}{ccc}
-7 & 1 & -1 \\
-13 & 2 & -3 \\
5 & -2 & 9
\end{array}
\right| (第2列から-2をくくり出し)\\ &=2\left|
\begin{array}{ccc}
-7 & 1 & -1 \\
1 & 0 & -1 \\
-9 & 0 & 7
\end{array}
\right| ((1,2)成分で第2列の掃き出し)\\ &=-2\left|
\begin{array}{cc}
1 & -1 \\
-9 & 7
\end{array}
\right| (第2列に関する余因子展開) \\ &=-2(7-9) \\ &=4
\end{align*}\]
計算は大変だが、やっていることは基本変形と余因子展開の繰り返しである。闇雲に余因子展開をして、3次正方行列の行列式を4つも解くよりは早く正確に計算できる。
成分に0が増えるように変形することがポイントである。
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