連立方程式の解法には、クラメルの公式より実用的な掃き出し法(ガウス・ジョルダンの消去法とも)を用いることが多い。
ここでは、掃き出し法を用いて連立方程式を解く方法、および逆行列を求める方法を解説する。
行列の基本変形について復習し、拡大係数行列の基本変形により解を導く流れを例題を解きながら理解していこう。
掃き出し法の流れ
掃き出し法とは、連立方程式からつくられる拡大係数行列を用いて消去法の計算を行う方法である。
その流れを説明しよう。
拡大係数行列
\(n\)元連立1次方程式
\[\begin{cases}
a_{11}x_1 + a_{12}x_2 + \cdots + a_{1n}x_n = b_1 \\
a_{21}x_1 + a_{22}x_2 + \cdots + a_{2n}x_n = b_2 \\
~~~~~\vdots \\
a_{n1}x_1 + a_{n2}x_2 + \cdots + a_{nn}x_n = b_n
\end{cases}\]
に対する拡大係数行列は次の行列として定義される。
\[
\left(
\begin{array}{cccc|c}
a_{11} & a_{12} & \ldots & a_{1n} & b_1\\
a_{21} & a_{22} & \ldots & a_{2n} & b_2 \\
\vdots & \vdots & & \vdots & \vdots \\
a_{n1} & a_{n2} & \ldots & a_{nn} & b_n
\end{array}
\right)
\]
拡大係数行列は、左辺の各変数の係数と右辺の定数項を並べて、この間に縦線を引いてつくられる。
行基本変形
拡大係数行列に対し、行基本変形を行う。
- 2つの行を入れ替える
- ある行を定数倍する
- ある行の定数倍を他の行に加える
行列式に対する行基本変形では行列式の値が変化したが、掃き出し法における行基本変形では解に変化はない。
このことは通常の連立方程式の解き方との対比を考えれば当然である。
ただし、行基本変形の前後で拡大係数行列は別物なので、行列式のときのようにイコールで結ぶことはできない。
掃き出し法では、行基本変形を矢印(→)で結ぶこととする。
単位行列をつくる
拡大係数行列を、次のように書くことにする。
$$[A|\boldsymbol{b}]$$
行基本変形を繰り返し、縦線の左側を単位行列に変形する。
$$[E|A^{-1}\boldsymbol{b}]$$
このとき、縦線の右側が求める解になっている。
具体的な連立方程式の解を計算して、掃き出し法の使い方を理解しよう。
例題(連立方程式)
次の連立方程式の解を掃き出し法で求めよ。
\[\begin{cases}
2x_1 + 3x_2 + x_3 = 7 \\
x_1 + x_2 – x_3 = 4 \\
3x_1 + x_2 – x_3 = 6
\end{cases}\]
(解)
拡大係数行列をつくり、基本変形を行う。
\[\begin{align*}
\left(
\begin{array}{ccc|c}
2 & 3 & 1 & 7 \\
1 & 1 & -1 & 4 \\
3 & 1 & -1 & 6
\end{array}
\right) &\longmapsto \left(
\begin{array}{ccc|c}
1 & 1 & -1 & 4 \\
2 & 3 & 1 & 7 \\
3 & 1 & -1 & 6
\end{array}
\right) \\ &\longmapsto \left(
\begin{array}{ccc|c}
1 & 1 & -1 & 4 \\
0 & 1 & 3 & -1 \\
0 & -2 & 2 & -6
\end{array}
\right) \\ &\longmapsto \left(
\begin{array}{ccc|c}
1 & 1 & -1 & 4 \\
0 & 1 & 3 & -1 \\
0 & -1 & 1 & -3
\end{array}
\right) \\ &\longmapsto \left(
\begin{array}{ccc|c}
1 & 0 & -4 & 5 \\
0 & 1 & 3 & -1 \\
0 & 0 & 4 & -4
\end{array}
\right) \\ &\longmapsto \left(
\begin{array}{ccc|c}
1 & 0 & -4 & 5 \\
0 & 1 & 3 & -1 \\
0 & 0 & 1 & -1
\end{array}
\right) \\ &\longmapsto \left(
\begin{array}{ccc|c}
1 & 0 & 0 & 1 \\
0 & 1 & 0 & 2 \\
0 & 0 & 1 & -1
\end{array}
\right)
\end{align*}\]
したがって
\[
\boldsymbol{x}=\left(
\begin{array}{c}
1 \\
2 \\
-1
\end{array}
\right)
\]
となる。
(変形の詳細は省略した)
逆行列の求め方
掃き出し法を用いると、連立方程式の解だけでなく逆行列を簡単に求めることもできる。
解くべき方程式は
$$AX=E$$
であり、このときの拡大係数行列
$$[A|E]$$
を基本変形によって
$$[E|A^{-1}]$$
の形にする。
縦線の左側が単位行列になったとき、縦線の右側が求める逆行列になっている。
具体例で確認していく。
例題(逆行列)
先の例題と同じ問題を、逆行列を通じて計算してみる。
次の連立方程式の解を、逆行列を求めてから計算せよ。
\[\begin{cases}
2x_1 + 3x_2 + x_3 = 7 \\
x_1 + x_2 – x_3 = 4 \\
3x_1 + x_2 – x_3 = 6
\end{cases}\]
(解)
拡大係数行列の基本変形から逆行列を求める。
\[\begin{align*}
\left(
\begin{array}{ccc|ccc}
2 & 3 & 1 & 1 & 0 & 0 \\
1 & 1 & -1 & 0 & 1 & 0 \\
3 & 1 & -1 & 0 & 0 & 1
\end{array}
\right) &\longmapsto \left(
\begin{array}{ccc|ccc}
1 & 1 & -1 & 0 & 1 & 0 \\
2 & 3 & 1 & 1 & 0 & 0 \\
3 & 1 & -1 & 0 & 0 & 1
\end{array}
\right) \\ &\longmapsto \left(
\begin{array}{ccc|ccc}
1 & 1 & -1 & 0 & 1 & 0 \\
0 & 1 & 3 & 1 & -2 & 0 \\
0 & -2 & 2 & 0 & -3 & 1
\end{array}
\right) \\ &\longmapsto \left(
\begin{array}{ccc|ccc}
1 & 0 & -4 & -1 & 3 & 0 \\
0 & 1 & 3 & 1 & -2 & 0 \\
0 & 0 & 8 & 2 & -7 & 1
\end{array}
\right) \\ &\longmapsto \left(
\begin{array}{ccc|ccc}
1 & 0 & -4 & -1 & 3 & 0 \\
0 & 1 & 3 & 1 & -2 & 0 \\
0 & 0 & 1 & \frac{1}{4} & -\frac{7}{8} & \frac{1}{8}
\end{array}
\right) \\ &\longmapsto \left(
\begin{array}{ccc|ccc}
1 & 0 & 0 & 0 & -\frac{1}{2} & \frac{1}{2} \\
0 & 1 & 0 & \frac{1}{4} & \frac{5}{8} & -\frac{3}{8} \\
0 & 0 & 1 & \frac{1}{4} & -\frac{7}{8} & \frac{1}{8}
\end{array}
\right)
\end{align*}\]
よって
\[
A^{-1} = \frac{1}{8}\left(
\begin{array}{ccc}
0 & -4 & 4 \\
2 & 5 & -3 \\
2 & -7 & 1
\end{array}
\right)
\]
となり、求める解は
\[
\boldsymbol{x}=A^{-1}\boldsymbol{b}=\frac{1}{8}\left(
\begin{array}{ccc}
0 & -4 & 4 \\
2 & 5 & -3 \\
2 & -7 & 1
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{c}
7 \\
4 \\
6
\end{array}
\right)=\frac{1}{8}\left(
\begin{array}{c}
8 \\
16 \\
-8
\end{array}
\right)=\left(
\begin{array}{c}
1 \\
2 \\
-1
\end{array}
\right)
\]
先と同じ解を得た。
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