総和規約について

ベクトルやテンソルの演算を行うとき、総和記号を省略すると簡単に記述することができるようになる。

このような記述方法を総和規約(summation convention)という。

以下では総和規約のルールについて紹介し、使い方を解説する。

 

総和規約

二つのベクトル\(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\)の内積は次のように計算される。

\begin{align*}
\boldsymbol{a}・\boldsymbol{b}&=(a_1\boldsymbol{e}_1+a_2\boldsymbol{e}_2+a_3\boldsymbol{e}_3)・(b_1\boldsymbol{e}_1+b_2\boldsymbol{e}_2+b_3\boldsymbol{e}_3) \\
&=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3 \\
&=\sum_{i=1}^3a_ib_i
\end{align*}

これを簡略化すると、次のように書くことができる。

$$\boldsymbol{a}・\boldsymbol{b}=a_ib_i$$

 

もうひとつ例をみてみよう。

二階のテンソル\(\boldsymbol{T}\)とベクトル\(\boldsymbol{n}\)の積は次のように計算される。

\begin{align*}
\boldsymbol{T}・\boldsymbol{n}&=\left(
\begin{array}{c}
T_{11}\boldsymbol{e}_1\otimes\boldsymbol{e}_1+T_{12}\boldsymbol{e}_1\otimes\boldsymbol{e}_2+T_{13}\boldsymbol{e}_1\otimes\boldsymbol{e}_3 \\
+T_{21}\boldsymbol{e}_2\otimes\boldsymbol{e}_1+T_{22}\boldsymbol{e}_2\otimes\boldsymbol{e}_2+T_{23}\boldsymbol{e}_2\otimes\boldsymbol{e}_3 \\
+T_{31}\boldsymbol{e}_3\otimes\boldsymbol{e}_1+T_{32}\boldsymbol{e}_3\otimes\boldsymbol{e}_2+T_{33}\boldsymbol{e}_3\otimes\boldsymbol{e}_3
\end{array}
\right)・(n_1\boldsymbol{e}_1+n_2\boldsymbol{e}_2+n_3\boldsymbol{e}_3) \\
&=(T_{11}\boldsymbol{e}_1+T_{21}\boldsymbol{e}_2+T_{31}\boldsymbol{e}_3)n_1+(T_{12}\boldsymbol{e}_1+T_{22}\boldsymbol{e}_2+T_{32}\boldsymbol{e}_3)n_2+(T_{13}\boldsymbol{e}_1+T_{23}\boldsymbol{e}_2+T_{33}\boldsymbol{e}_3)n_3 \\
&=(T_{11}n_1+T_{12}n_2+T_{13}n_3)\boldsymbol{e}_1+(T_{21}n_1+T_{22}n_2+T_{23}n_3)\boldsymbol{e}_2+(T_{31}n_1+T_{32}n_2+T_{33}n_3)\boldsymbol{e}_3 \\
&=\sum_{i=1}^3\sum_{j=1}^3T_{ij}n_j\boldsymbol{e}_i
\end{align*}

(テンソル積の定義を確認しておこう)

このように、テンソルの積をすべて記述しようとするとかなり煩雑になってしまう。

これを簡略化すると、次のように書くことができる。

$$\boldsymbol{T}・\boldsymbol{n}=T_{ij}n_j\boldsymbol{e}_i$$

 

これが総和規約である。

添え字に関してルールを決めることで、総和記号を省略することができる。

ダミーインデックスとフリーインデックス

総和規約には次のルールがある。

  • 同じ項に2度現れる添え字について和をとる。
  • 同じ項に1度しか現れない添え字については和はとらない。
  • 同じ項に同じ添え字が3度以上現れてはいけない。

 

2度現れて和をとる添え字のことをダミーインデックス(擬標)、1度しか現れない添え字のことをフリーインデックス(自由標)と呼ぶ。

ダミーインデックスは、単に総和をとることを示す意味しか持たないため、文字を自由に交換してもよい。

一方でフリーインデックスはそのものに意味があるため、勝手に変更することはできない。

 

例えば上の内積の例でいえば、添え字\(i\)は2度現れているためダミーインデックスであり、総和をとる。

$$a_ib_i=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3$$

これに対して、以下の例では\(i\)はフリーインデックス、\(j\)はダミーインデックスであり、\(j\)についてのみ総和をとる。

$$c_{ij}d_j=c_{i1}d_1+c_{i2}d_2+c_{i3}d_3$$

 

総和規約をうまく利用すると、ベクトルやテンソルの演算を簡潔に記述することができるようになる。

 

総和規約による計算でよく登場する記号を2つ紹介しておく。

クロネッカーのデルタ

\(\delta_{ij}\)を以下のように定義する。

\[\delta_{ij}=\begin{cases}
1 & (i=j) \\
0 & (i\not=j)
\end{cases}\]

これを、Kroneckerのデルタ記号と呼ぶ。

単位行列や正規直交基底の内積をこの記号で表すことができるという利便性がある。

 

この記号を用いると、ベクトルの内積は次のように計算することができる。

\begin{align*}
\boldsymbol{a}・\boldsymbol{b}&=a_i\boldsymbol{e}_i・b_j\boldsymbol{e}_j \\
&=a_ib_j\boldsymbol{e}_i・\boldsymbol{e}_j \\
&=a_ib_j\delta_{ij} \\
&=a_ib_i
\end{align*}

また、2階のテンソルとベクトルの積は次のように計算することができる。

\begin{align*}
\boldsymbol{T}・\boldsymbol{n}&=(T_{ij}\boldsymbol{e}_i\otimes\boldsymbol{e}_j)・(n_k\boldsymbol{e}_k) \\
&=T_{ij}n_k\delta_{jk}\boldsymbol{e}_i \\
&=T_{ij}n_j\boldsymbol{e}_i
\end{align*}

 

エディントンのイプシロン

\(\varepsilon_{ijk}\)を以下のように定義する。

\[\varepsilon_{ijk}=\begin{cases}
1 & (i,j,k)が1,2,3の偶置換 \\
-1 & (i,j,k)が1,2,3の奇置換 \\
0 & (添え字が重複するとき)
\end{cases}\]

これを、Eddingtonのイプシロン(または交代記号、レヴィ・チビタ記号とも)と呼ぶ。

 

偶置換・奇置換とは、123を基準にしたときに、二つの数を偶数回・奇数回入れ替えて作られる並びのことである。

例えば123の1と3を入れ替えると321となり、これは奇置換である。さらに3と2を入れ替えると231となり、これは偶置換である。まとめると

\begin{cases}
偶置換:(i,j,k)=(1,2,3),(2,3,1),(3,1,2) \\
奇置換:(i,j,k)=(1,3,2),(3,2,1),(2,1,3)
\end{cases}

である。

 

この記号を用いると、ベクトルの外積を次のように表すことができる。

$$\boldsymbol{a}×\boldsymbol{b}=\varepsilon_{ijk}a_jb_k\boldsymbol{e}_i$$

また、次の公式がある。

$$\varepsilon_{ijk}\varepsilon_{lmn}=\delta_{il}\delta_{jm}-\delta_{im}\delta_{jl}$$

$$\varepsilon_{ijk}\varepsilon_{ljk}=2\delta_{il}$$

 

まとめページ

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