今後の応用のため、テンソルの概念について簡単に学んでおくことにする。
テンソルという単語自体は様々な分野で出会うことになるだろうが、その概念を正確に理解しようとするとかなりハードルが高い。
ここでは、テンソルとは何かを掘り下げるのではなく、応用のためテンソルの演算について理解することを目的とする。
テンソルそのものについて知りたい方は他の参考書や記事を参照ください。
テンソルの定義
テンソルを定義する方法は複数の流儀がある。(wikipedia)
ここでは、材料力学への応用を念頭に置き、次のように(2階)テンソルを定義しよう。
任意のベクトル\(\boldsymbol{u}\)に作用してベクトル\(\boldsymbol{v}\)を生じる変換\(\boldsymbol{A}\)
$$\boldsymbol{v}=\boldsymbol{A}(\boldsymbol{u})$$
について、次のような線形性を持つものをテンソルとして与える。
\[\begin{cases}
\boldsymbol{A}(\boldsymbol{u}+\boldsymbol{v})=\boldsymbol{A}(\boldsymbol{u})+\boldsymbol{A}(\boldsymbol{v}) \\
\boldsymbol{A}(c\boldsymbol{u})=c\boldsymbol{A}(\boldsymbol{u})
\end{cases}\]
ただし、\(c\)は定数である。
このように、ベクトルからベクトルへの線形変換をテンソルという。
スカラーは0階のテンソル、ベクトルは1階のテンソルである。
2階のテンソルは行列の形に並べて表現することができる。ただし、テンソル=行列ではないことに注意する。
テンソルは、次のようにしてベクトルからつくることができる。
テンソル積
ベクトル\(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\)の間に成り立つ演算には、内積と外積があった。
これに加えて、テンソル積\(\boldsymbol{a}\otimes\boldsymbol{b}\)を次式を満たすものとして定義する。
テンソル積\(\boldsymbol{a}\otimes\boldsymbol{b}\)はダイアドとも呼ぶ。
\[\begin{cases}
\boldsymbol{a}\otimes\boldsymbol{b}=\boldsymbol{A} \\
\boldsymbol{c}=\boldsymbol{u} \\
(\boldsymbol{b}・\boldsymbol{c})\boldsymbol{a}=\boldsymbol{v}
\end{cases}\]
とみると、\(\boldsymbol{a}\otimes\boldsymbol{b}\)は先のテンソルの定義を満たすことがわかる。
さらに、テンソル積の線形和
$$r(\boldsymbol{a}\otimes\boldsymbol{b})+s(\boldsymbol{c}\otimes\boldsymbol{d})+\cdots$$
もまたテンソルである。これをディアディックと呼ぶ。
テンソル積の前後を入れ替えてみよう。
$$(\boldsymbol{b}\otimes\boldsymbol{a})・\boldsymbol{c}=(\boldsymbol{a}・\boldsymbol{c})\boldsymbol{b}$$
ベクトルのテンソル積は、一般に可換ではないことがわかる。
$$\boldsymbol{a}\otimes\boldsymbol{b}\not=\boldsymbol{b}\otimes\boldsymbol{a}$$
テンソルの表記方法
2階のテンソルは以下のようにマトリクス形式で表記することができる。
\[[A_{ij}] = \left[
\begin{array}{ccc}
A_{11} & A_{12} & A_{13} \\
A_{21} & A_{22} & A_{23} \\
A_{31} & A_{32} & A_{33}
\end{array}
\right]\]
または、ベクトルと同じように基底ベクトル\(\boldsymbol{e}_i\)を用いてディアディック表示することができる。
$$\boldsymbol{a}=a_1\boldsymbol{e}_1+a_2\boldsymbol{e}_2+a_3\boldsymbol{e}_3=a_i\boldsymbol{e}_i$$
\[\begin{align*}
\boldsymbol{A}& =~~A_{11}\boldsymbol{e}_1\otimes\boldsymbol{e}_1+A_{12}\boldsymbol{e}_1\otimes\boldsymbol{e}_2+A_{13}\boldsymbol{e}_1\otimes\boldsymbol{e}_3 \\
& ~~~+A_{21}\boldsymbol{e}_2\otimes\boldsymbol{e}_1+A_{22}\boldsymbol{e}_2\otimes\boldsymbol{e}_2+A_{23}\boldsymbol{e}_2\otimes\boldsymbol{e}_3 \\
& ~~~+A_{31}\boldsymbol{e}_3\otimes\boldsymbol{e}_1+A_{32}\boldsymbol{e}_3\otimes\boldsymbol{e}_2+A_{33}\boldsymbol{e}_3\otimes\boldsymbol{e}_3 \\
& =A_{ij}\boldsymbol{e}_i\otimes\boldsymbol{e}_j
\end{align*}\]
最右辺は総和規約による記法である。
また、これ以降テンソルのベクトルへの作用は「・」により表すことにする。
$$\boldsymbol{v}=\boldsymbol{A}・\boldsymbol{u}$$
次回の記事では、テンソルの基本演算について学ぶ。
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