前回は行列の固有値と固有ベクトルの求め方を学んだ。
[mathjax] 行列のもつ重要な特徴量である、固有値・固有ベクトルについて解説する。 固有値・固有ベクトルの概念はあらゆる分野で登場する。 特に、この後で学ぶ「行列の対角化」においては欠かせないので、計算方法も含めてし[…]
ここでは、この応用として重要な行列の対角化を紹介する。
線形代数では、行列の対角化は必ず学ぶ内容である。
対角行列は取り扱いがしやすいという利点があり、例えば行列のn乗の計算などに利用することができる。
行列の対角化とは
\(n\)次正方行列\(A\)が相違なる固有値\(\lambda_1,\lambda_2,\cdots,\lambda_n\)と固有ベクトル\(\boldsymbol{x}_1,\boldsymbol{x}_2,\cdots,\boldsymbol{x}_n\)をもつとき、正則行列\(P=[\boldsymbol{x}_1~~\boldsymbol{x}_2~~\cdots~~\boldsymbol{x}_n]\)を用いて
\[P^{-1}AP=\left(
\begin{array}{cccc}
\lambda_1 & 0 & \ldots & 0 \\
0 & \lambda_2 & \ldots & 0 \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
0 & 0 & \ldots & \lambda_n
\end{array}
\right)\]
とすることができる。これを行列の対角化という。
固有ベクトルを並べてつくる行列\(P\)を変換行列という。
\(P\)の逆行列を左から、\(P\)を右からかけると、固有値を対角成分に持つような行列を作ることができる、ということである。
このとき\(A\)は対角化可能である、という。対角化可能な条件については後述する。
このようにして行列を対角化できる理由は、次のようにして確認できる。
\(\boldsymbol{x}_i\)は行列\(A\)の固有値\(\lambda_i\)に対応する固有ベクトルなので
$$A\boldsymbol{x}_i=\lambda_i\boldsymbol{x}_i$$
よって、\(P\)が正則ならば\(P^{-1}\)が存在して
\begin{align*}
P^{-1}AP&=P^{-1}A[\boldsymbol{x}_1~~\boldsymbol{x}_2~~\cdots~~\boldsymbol{x}_n] \\
&=P^{-1}[\lambda_1\boldsymbol{x}_1~~\lambda_2\boldsymbol{x}_2~~\cdots~~\lambda_n\boldsymbol{x}_n] \\
&=P^{-1}\overbrace{[\boldsymbol{x}_1~~\boldsymbol{x}_2~~\cdots~~\boldsymbol{x}_n]}^P\left[
\begin{array}{cccc}
\lambda_1 & 0 & \ldots & 0 \\
0 & \lambda_2 & \ldots & 0 \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
0 & 0 & \ldots & \lambda_n
\end{array}
\right] \\
&=\left[
\begin{array}{cccc}
\lambda_1 & 0 & \ldots & 0 \\
0 & \lambda_2 & \ldots & 0 \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
0 & 0 & \ldots & \lambda_n
\end{array}
\right]
\end{align*}
となり、確かに対角行列になっている。
対角化可能となる条件
すべての行列が必ずしも対角化可能ではない。
これは変換行列\(P\)が必ずしも正則ではないためである。
逆に、\(P\)が正則になるようなn個の固有ベクトルを選ぶことができる行列\(A\)は対角化可能であるといえる。
正則であるということは、\(\mathrm{rank}P=n\)すなわちn個の一次独立な列ベクトルをもつということである。
よって、対角化可能な条件は次のように表すことができる。
先の定義では「固有値がすべて異なる」という文言が入っているが、異なる固有値に対する固有ベクトルは一次独立であることが保証されている(参照)。
ただし、固有値が重複する場合においても、一次独立な固有ベクトルを取ることができる場合には対角化可能になる。これは後で計算例を示す。
対角化の計算方法
行列\(A\)の対角化の計算手順をまとめておく。
- \(A\)の固有方程式を解き、固有値および固有ベクトルを求める。
- 固有ベクトルを並べて変換行列\(P\)をつくる。
- \(P^{-1}AP\)は\(A\)の固有値を対角成分にもつ対角行列になる。
固有値・固有ベクトルを計算するところが山場で、対角化自体はほぼ自動的に終了する。
それでは、具体的な計算をしてみよう。
例1:異なる固有値を持つ場合
次の行列が対角化可能であれば対角化せよ。
\[A=\left(
\begin{array}{ccc}
1 & -1 & 1 \\
-7 & 2 & 1 \\
2 & 1 & 2
\end{array}
\right)\]
(解)
\(A\)の固有多項式\(\phi_A(\lambda)\)を計算する。
\begin{align*}
\phi_A(\lambda)&=|A-\lambda E| \\
&=\left|\begin{array}{ccc}
1-\lambda & -1 & 1 \\
-7 & 2-\lambda & 1 \\
2 & 1 & 2-\lambda
\end{array}\right| \\
&=(1-\lambda)(2-\lambda)^2-2-7-2(2-\lambda)-7(2-\lambda)-(1-\lambda) \\
&=-\lambda^3+5\lambda^2+2\lambda-24 \\
&=-(2+\lambda)(3-\lambda)(4-\lambda)
\end{align*}
よって固有値は\(-2,3,4\)であり、重複はないので対角化可能である。
次に固有ベクトルを求める。
\(\lambda_1=-2\)の場合:
\begin{align*}|A-\lambda_1 E|=\left|\begin{array}{ccc}
3 & -1 & 1 \\
-7 & 4 & 1 \\
2 & 1 & 4
\end{array}\right|=\left|\begin{array}{ccc}
3 & -1 & 1 \\
-10 & 5 & 0 \\
5 & 0 & 5
\end{array}\right|=\left|\begin{array}{ccc}
3 & -1 & 1 \\
-2 & 1 & 0 \\
1 & 0 & 1
\end{array}\right|\end{align*}
すなわち
\begin{cases}
x_3=-x_1 \\
x_2=2x_1 \\
3x_1-x_2+x_3=0
\end{cases}
したがって、固有ベクトルは
\begin{align*}\boldsymbol{x}_1=\left(\begin{array}{c}
-1 \\
-2 \\
1
\end{array}\right)\end{align*}
\(\lambda_2=3\)の場合:
\begin{align*}|A-\lambda_2 E|=\left|\begin{array}{ccc}
-2 & -1 & 1 \\
-7 & -1 & 1 \\
2 & 1 & -1
\end{array}\right|=\left|\begin{array}{ccc}
-2 & -1 & 1 \\
-5 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0
\end{array}\right|\end{align*}
すなわち
\begin{cases}
x_1=0 \\
x_3=2x_1+x_2
\end{cases}
したがって、固有ベクトルは
\begin{align*}\boldsymbol{x}_2=\left(\begin{array}{c}
0 \\
1 \\
1
\end{array}\right)\end{align*}
\(\lambda_3=4\)の場合:
\begin{align*}|A-\lambda_3 E|=\left|\begin{array}{ccc}
-3 & -1 & 1 \\
-7 & -2 & 1 \\
2 & 1 & -2
\end{array}\right|=\left|\begin{array}{ccc}
-3 & -1 & 1 \\
-4 & -1 & 0 \\
-1 & 0 & -1
\end{array}\right|\end{align*}
すなわち
\begin{cases}
x_3=-x_1 \\
x_2=-4x_1 \\
3x_1+x_2-x_3=0
\end{cases}
したがって、固有ベクトルは
\begin{align*}\boldsymbol{x}_3=\left(\begin{array}{c}
-1 \\
4 \\
1
\end{array}\right)\end{align*}
以上より、正則行列\(P\)
\[P=(\boldsymbol{x}_1,\boldsymbol{x}_2,\boldsymbol{x}_3)=\left(
\begin{array}{ccc}
-1 & 0 & -1 \\
-2 & 1 & 4 \\
1 & 1 & 1
\end{array}
\right)\]
を用いて対角化すると
\[P^{-1}AP=\left(
\begin{array}{ccc}
-2 & 0 & 0 \\
0 & 3 & 0 \\
0 & 0 & 4
\end{array}
\right)\]
となる。
例2:重複する固有値を持つ場合
固有方程式が重解を持つ場合を考えよう。
次の行列が対角化可能であれば対角化せよ。
\[A=\left(
\begin{array}{ccc}
2 & 1 & 0 \\
1 & 2 & 0 \\
1 & 1 & 1
\end{array}
\right)\]
(解)
行列\(A\)の固有方程式は
\[\begin{align*}
|A-\lambda E|&=\left|\begin{array}{ccc}
2-\lambda & 1 & 0 \\
1 & 2-\lambda & 0 \\
1 & 1 & 1-\lambda
\end{array}\right| \\
&=(2-\lambda)^2(1-\lambda)-(1-\lambda) \\
&=(1-\lambda)\{(2-\lambda)^2-1\} \\
&=(1-\lambda)^2(3-\lambda)=0
\end{align*}\]
より、固有値は\(\lambda_1=1,\lambda_2=3\)である。
\(\lambda_1=1\)の場合:
\begin{align*}|A-\lambda_1 E|=\left|\begin{array}{ccc}
1 & 1 & 0 \\
1 & 1 & 0 \\
1 & 1 & 0
\end{array}\right|=\left|\begin{array}{ccc}
1 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0
\end{array}\right|\end{align*}
すなわち\(x_1+x_2=0\)である。ここで
\begin{cases}
x_1=k_1 \\
x_3=k_2
\end{cases}
とおくと、\(x_2=-k_1\)となる。したがって
\begin{align*}\boldsymbol{x}_1=\left(\begin{array}{c}
k_1 \\
-k_1 \\
k_2
\end{array}\right)=k_1\left(\begin{array}{c}
1 \\
-1 \\
0
\end{array}\right)+k_2\left(\begin{array}{c}
0 \\
0 \\
1
\end{array}\right)\end{align*}
となり、\((1,-1,0)\)と\((0,0,1)\)という線形独立な2つのベクトルからなる固有ベクトルを得る。
\(\lambda_2=3\)の場合:
\begin{align*}|A-\lambda_2 E|=\left|\begin{array}{ccc}
-1 & 1 & 0 \\
1 & -1 & 0 \\
1 & 1 & -2
\end{array}\right|=\left|\begin{array}{ccc}
-1 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 0 \\
0 & 2 & -2
\end{array}\right|\end{align*}
すなわち\(x_1=x_2=x_3\)
したがって、固有ベクトルは
\begin{align*}\boldsymbol{x}_2=k_3\left(\begin{array}{c}
1 \\
1 \\
1
\end{array}\right)\end{align*}
以上より
\[P=\left(
\begin{array}{ccc}
1 & 0 & 1 \\
-1 & 0 & 1 \\
0 & 1 & 1
\end{array}
\right)\]
を用いて
\[P^{-1}AP=\left(
\begin{array}{ccc}
1 & 0 & 0 \\
0 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 3
\end{array}
\right)\]
と対角化できる。
このように、固有値が重複していても対角化できるものもあるが、もちろんできないものもある。
対角化できない場合は、ジョルダン標準形を使うことになる。これについてはまた別途紹介する。
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