前回は偏微分の計算について学びました。
ここから、理工系の分野でよく用いられる全微分の概念からチェインルール、テイラーの定理について学んでいきます。
全微分
以下、\(f(x, y)\)は点\((a, b)\)の近傍で定義されているとします。
適当な定数\(A、B\)に対して
とおくとき、\(\displaystyle{\lim_{(h,k)\to(0,0)}\varepsilon=0}\)であるならば、\(fは(a,b)で全微分可能\)である、という。
このとき、\(\displaystyle{\lim_{(h,k)\to(0,0)}\Delta f=0}\)なので、\(fは(a,b)\)で連続となる。
\(k=0\)とおき\(h\to0\)とすれば、\(f_x(a,b)=A\)を得る。同様にして、\(f_y(a,b)=B\)を得る。
よって、全微分可能ならば、偏微分可能である。
定理:偏導関数と全微分可能
\(f_x、f_y\)が存在して、それらのいずれかが連続であるならば、\(f\)は全微分可能である。
特に、\(C^1\)級関数は全微分可能である。
\(f(x, y)\)を点\((a, b)\)で全微分可能とします。\(h=\Delta x、k=\Delta y\)とおくと、
となり、\(\Delta x、\Delta y\to0\)のとき\(\varepsilon\to0\)です。
よって、\(\Delta x、\Delta y\to0\)のとき、\(\Delta f-\{f_x(a,b)\Delta x+f_y(a,b)\Delta y\}\)は\(\sqrt{(\Delta x)^2+(\Delta y)^2}\)より高位の無限小となります。
したがって、\(|\Delta x|、|\Delta y|\)がともに十分小さいとき、次の近似式
$$\Delta f\simeq f_x(a,b)\Delta x+f_y(a,b)\Delta y$$
が成り立ちます。近似の精度は\(|\Delta x|、|\Delta y|\)が小さいほどよくなります。
\(\Delta x、\Delta y\to0\)を\(dx、dy\)に替えてできる形式
を、\(fの(a, b)\)における全微分とよび、\(df\)で表します。
合成関数の微分
定理
\(z=f(x,y)\)は領域\(D\)で全微分可能とする。\(x=x(t)、y=y(t)\)は区間\(I\)で微分可能で、各\(t\)に対応する\((x(t),y(t))\)は\(D\)に属するとする。
このとき、合成関数\(z=f(x(t),y(t))\)は\(I\)上で微分可能であり、次式が成り立つ。
\begin{align*}
\frac{dz}{dt}&=f_x(x(t),y(t))x'(t)+f_y(x(t),y(t))y'(t) \\
&=\frac{\partial z}{\partial x}\frac{dx}{dt}+\frac{\partial z}{\partial y}\frac{dy}{dt}
\end{align*}
\]
(証明)
$$\Delta x=x(t+\Delta t)-x(t)=(x'(t)+\varepsilon_1)\Delta t$$
$$\Delta y=y(t+\Delta t)-y(t)=(y'(t)+\varepsilon_2)\Delta t$$
とおくと、\(\Delta t\to0\)のとき\(\varepsilon_1、\varepsilon_2\to0\)
の\(f_x(a,b)\Delta x+f_y(a,b)\Delta y\)に代入して
ここで、\(\Delta t\to0\)のとき、\(\Delta x、\Delta y\to0\)なので、\(\varepsilon\to0\)
また、\(\left(\frac{\Delta x}{\Delta t}\right)^2+\left(\frac{\Delta y}{\Delta t}\right)^2\to x’^2(t)+y’^2(t)\)
したがって、上式の右辺は0に収束する。ゆえに
$$\frac{dz}{dt}=\lim_{\Delta t\to0}\frac{\Delta z}{\Delta t}=f_xx'(t)+f_yy'(t)$$
(証明終)
連鎖公式(チェインルール)
多変数の合成関数を偏微分するときに用いられる重要なルールです。
\(z=f(x,y)\)は領域\(D\)で全微分可能とする。\(u、v\)の関数\(x=x(u,v)\)、\(y=y(u,v)\)がともに領域\(\Omega\)で偏微分可能で、\(\Omega\)内の各点\((u,v)\)に対して点\((x(u,v),y(u,v))\)は\(D\)に属するとする。
このとき、合成関数\(z=f(x(u,v),y(u,v))\)について次式が成立する。
$$\frac{\partial z}{\partial u}=\frac{\partial z}{\partial x}\frac{\partial x}{\partial u}+\frac{\partial z}{\partial y}\frac{\partial y}{\partial u}$$
$$\frac{\partial z}{\partial v}=\frac{\partial z}{\partial x}\frac{\partial x}{\partial v}+\frac{\partial z}{\partial y}\frac{\partial y}{\partial v}$$
証明は上記定理と同様です。
テイラーの定理
\(z=f(x,y)\)が領域\(D\)で\(C^n\)級で、線分\(\{(a+ht, b+kt)|0\le t\le1 \}\)は\(D\)に含まれているとします。
このとき、\(z=f(a+ht, b+kt) (0≦t≦1)\)に対して
が成り立ちます。この右辺を形式的に
$$\left( h\frac{\partial}{\partial x}+k\frac{\partial}{\partial y} \right)^nf(a+ht,b+kt)$$
と書きます。この式は帰納的に示されます。
\(f(x,y)\)は領域\(D\)上で\(C^n(n\ge1)\)級とし、線分\(\{(a+ht, b+kt)|0\le t\le1 \}\)は\(D\)に含まれるとする。このとき
\begin{align*}
f(a+h,b+k)&=f(a,b)+\left( h\frac{\partial}{\partial x}+k\frac{\partial}{\partial y} \right)f(a,b)+…+\frac{1}{r!}\left( h\frac{\partial}{\partial x}+k\frac{\partial}{\partial y} \right)^rf(a,b) \\
&~~~~+…+\frac{1}{(n-1)!}\left( h\frac{\partial}{\partial x}+k\frac{\partial}{\partial y} \right)^{n-1}f(a,b)+\frac{1}{n!}\left( h\frac{\partial}{\partial x}+k\frac{\partial}{\partial y} \right)^nf(a+\theta h,b+\theta k)
\end{align*}
\]
をみたす\(\theta (0\le\theta\le1)\)が存在する。
(証明)
\(z=f(a+ht, b+kt)\)は[0,1]で\(C^n\)級である。
よって、1変数のテイラーの定理から、ある\(\theta (0\le\theta\le1)\)が存在して、
が成り立つ。
から、定理を得る。
(証明終)
1変数のテイラーの定理については以下の記事をご参照ください。
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