対称行列の対角化の応用例のひとつとして、2次形式の行列表示および標準化について学ぶ。
2次形式の標準形を求めると、少し複雑な二次曲線が描けるほか、行列の符号の判定が簡単にできるようになる。
2次形式とは
2次形式とは、二次の項のみからなる多項式のことをいう。
たとえば
$$q(x_1,x_2)=x_1^2+2x_1x_2+3x_2^2$$
は\(x_1,x_2\)の二次の項のみからなるので、\(q(x_1,x_2)\)は2次形式である。
一次の項が含まれる場合は2次形式とは言わないので注意しよう。
もう少し一般的に表現すると、次のように書くことができる。
\(n\)個の変数\(x_1,x_2,\cdots,x_n\)に関する二次式
$$q(x_1,x_2,\cdots,x_n)=\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}a_{ij}x_ix_j (ただしa_{ji}=a_{ij})$$
を2次形式という。
2変数の2次形式は\(n=2\)として次のようにかける。
\begin{align*}
\sum_{i=1}^{2}\sum_{j=1}^{2}a_{ij}x_ix_j&=\sum_{i=1}^{2}(a_{i1}x_ix_1+a_{i2}x_ix_2) \\
&=a_{11}x_1x_1+a_{21}x_2x_1+a_{12}x_1x_2+a_{22}x_2x_2 \\
&=a_{11}x_1^2+2a_{12}x_1x_2+a_{22}x_2^2
\end{align*}
また、3変数の場合は次のようになる。
\begin{align*}
\sum_{i=1}^{3}\sum_{j=1}^{3}a_{ij}x_ix_j&=\sum_{i=1}^{3}(a_{i1}x_ix_1+a_{i2}x_ix_2+a_{i3}x_ix_3) \\
&=a_{11}x_1^2+a_{22}x_2^2+a_{33}x_3^2+2a_{12}x_1x_2+2a_{13}x_1x_3+2a_{23}x_2x_3
\end{align*}
2次形式の行列表示
2次形式は、実対称行列を用いて表すことができる。
2変数の場合を例にとってみよう。
ベクトル\(\boldsymbol{x}\)および実対称行列\(A\)を
\[\boldsymbol{x}=\left(
\begin{array}{c}
x_1 \\
x_2
\end{array}
\right),A=\left(
\begin{array}{cc}
a_{11} & a_{12} \\
a_{12} & a_{22}
\end{array}
\right)\]
とすると
\begin{align*}
\boldsymbol{x}^TA\boldsymbol{x}&=(x_1~~x_2)\left(
\begin{array}{cc}
a_{11} & a_{12} \\
a_{12} & a_{22}
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{c}
x_1 \\
x_2
\end{array}
\right) \\
&=(a_{11}x_1+a_{12}x_2~~a_{12}x_1+a_{22}x_2)\left(
\begin{array}{c}
x_1 \\
x_2
\end{array}
\right) \\
&=a_{11}x_1^2+a_{12}x_1x_2+a_{12}x_1x_2+a_{22}x_2^2 \\
&=a_{11}x_1^2+2a_{12}x_1x_2+a_{22}x_2^2
\end{align*}
3変数以上のときも同じように表すことができる。
2次形式\(q\)は、実対称行列\(A\)およびベクトル\(\boldsymbol{x}\)を用いて
$$q=\boldsymbol{x}^TA\boldsymbol{x}$$
と書くことができる。
逆に、任意の実対称行列が与えられたとき、この式によって2次形式をつくることができる。
2次形式の標準形
2次形式の中でも、1つの変数の二次の項のみからなるものを標準形という。
例えば、\(q=x_1^2+2x_2^2\)は標準形で表された2変数の2次形式である。
任意の2次形式は、適当な変換により標準形にすることができる。
実対称行列が直交行列によって対角化できることを利用する。
[mathjax] 前回の記事では、一般の行列の対角化の条件や計算手順を学んだ。 [sitecard subtitle=関連記事 url=https://ramenhuhu.com/math-diagonalization] […]
標準化の手順は以下の通りである。
- 2次形式を\(\boldsymbol{x}^TA\boldsymbol{x}\)の形で表す
- 対称行列\(A\)を直交行列\(U\)を用いて\(U^{-1}AU\)と対角化する
- \(\boldsymbol{x}^{\prime}=U^{-1}\boldsymbol{x}=U^T\boldsymbol{x}\)と変数変換する
- 標準形\(\lambda_1{x’_1}^2+\cdots+\lambda_n{x’_n}^2\)を得る。このときの係数は行列\(A\)の固有値になる
例題を解きながら計算の流れを理解しよう。
演習問題
次の2次形式を標準化せよ。
$$x^2+4xy+y^2$$
(解)
$$q=x^2+4xy+y^2=(x~~y)\left(
\begin{array}{cc}
1 & 2 \\
2 & 1
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{c}
x \\
y
\end{array}
\right)$$
と変形できるので
\[A=\left(
\begin{array}{cc}
1 & 2 \\
2 & 1
\end{array}
\right)\]
とする。
\(A\)の固有方程式
\begin{align*}
|A-\lambda E|&=\left|
\begin{array}{cc}
1-\lambda & 2 \\
2 & 1-\lambda
\end{array}
\right| \\
&=(1-\lambda)^2-4 \\
&=\{1-\lambda+2\}\{1-\lambda-2\} \\
&=-(3-\lambda)(1+\lambda)=0
\end{align*}
から、固有値は\(\lambda_1=-1,\lambda_2=3\)である。
(1)\(\lambda_1=-1\)のとき
\[\left(
\begin{array}{cc}
2 & 2 \\
2 & 2
\end{array}
\right)\boldsymbol{x}_1=\boldsymbol{0}\]
から\(\boldsymbol{x}_1=k_1\left(
\begin{array}{c}
1 \\
-1
\end{array}
\right)\)となるので、単位固有ベクトルは
\[\boldsymbol{u}_1=\frac{1}{\sqrt{2}}\left(
\begin{array}{c}
1 \\
-1
\end{array}
\right)\]
となる。
(2)\(\lambda_2=3\)のとき
\[\left(
\begin{array}{cc}
-2 & 2 \\
2 & -2
\end{array}
\right)\boldsymbol{x}_2=\boldsymbol{0}\]
から\(\boldsymbol{x}_2=k_2\left(
\begin{array}{c}
1 \\
1
\end{array}
\right)\)となるので、単位固有ベクトルは
\[\boldsymbol{u}_2=\frac{1}{\sqrt{2}}\left(
\begin{array}{c}
1 \\
1
\end{array}
\right)\]
となる。
よって、直交行列
\[U=\frac{1}{\sqrt{2}}\left(
\begin{array}{cc}
1 & 1 \\
-1 & 1
\end{array}
\right)\]
を用いて
\[U^{-1}AU=\left(
\begin{array}{cc}
-1 & 0 \\
0 & 3
\end{array}
\right)\]
と対角化することができる。
ここで
\[\left(
\begin{array}{c}
x \\
y
\end{array}
\right)=U\left(
\begin{array}{c}
x^{\prime} \\
y^{\prime}
\end{array}
\right)\]
なる\(x^{\prime},y^{\prime}\)を考えると
$$(x~~y)=(x^{\prime}~~y^{\prime})U^T=(x^{\prime}~~y^{\prime})U^{-1}$$
が成り立つ。これを元の2次形式に代入すると
\begin{align*}
q&=(x^{\prime}~~y^{\prime})U^{-1}AU\left(
\begin{array}{c}
x^{\prime} \\
y^{\prime}
\end{array}
\right) \\
&=(x^{\prime}~~y^{\prime})\left(
\begin{array}{cc}
-1 & 0 \\
0 & 3
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{c}
x^{\prime} \\
y^{\prime}
\end{array}
\right)
\end{align*}
となる。
したがって
$$q=x^2+4xy+y^2=-{x^{\prime}}^2+3{y^{\prime}}^2$$
と、標準化することができた。
(解答終)
計算量は多いが、特段難しいことはやっていない。
ポイントは、対角化の際に求めた変換行列がきちんと直交行列になっていること、すなわち固有ベクトルが正規直交基底をなすことを確認することである。
上の例では問題なかったが、固有値が重複している場合に固有ベクトルが直交するかを確かめないとミスをしてしまうこともある。
グラム・シュミットの直交化法についても復習しておこう。
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