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2次形式と行列の定値性について

前回は2次形式の標準形について勉強した。

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線形代数学

実対称行列を直交行列で対角化できることを利用して、2次形式を標準形に変換できることはわかったが、これができると何が嬉しいのかについてはまだ触れていなかった。

ここでは、2次形式および行列の定値性符号)との関係を紹介していく。

 

定値性とは

2次形式が取りうる値の符号が一定であるとき、その2次形式は定符号であるという。

符号が正であるときを正定値、負であるときを負定値という。さらに、負でないときを半正定値、正でないときを半負定値という。

言葉だけではわかりにくいので、以下で具体的な形と一緒に紹介していく。

〇〇定値という用語は、2次形式に対してだけでなく、対称行列にも用いる。

 

2次形式が標準形で表されているとき、係数を見るだけで取りうる値の範囲を簡単に判別することができる。

また標準形の係数は2次形式を表す実対称行列の固有値であるから、固有値を見れば判別ができることになる。

 

以下では、\(q=q(\boldsymbol{x})=\boldsymbol{x}^TA\boldsymbol{x}\)を2次形式とする。

正定値:\(q(\boldsymbol{x})\gt0\)

零ベクトルではない任意の\(\boldsymbol{x}\)に対して、

$$q(\boldsymbol{x})\gt0$$

が成り立つとき、\(q\)あるいは\(A\)は正定値であるという。

 

例えば、2次形式の標準形が

$$q=2y_1^2+3y_2^2$$

のように係数がすべて正の値(すなわち固有値がすべて正)で与えられているとき、ともにゼロではない任意の\(y_1,y_2\)に対して正の値になる。

このように、常に正の値をとる2次形式のことを正定値という。

なお\(\boldsymbol{x}=U\boldsymbol{y}\)の関係があるので、\(\boldsymbol{y}=\boldsymbol{0}\)となるのは\(\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\)のときのみである。

 

係数がすべて正ということは、2次形式を表す実対称行列の固有値がすべて正である、ということができる。

 

半正定値:\(q(\boldsymbol{x})\ge0\)

零ベクトルではない任意の\(\boldsymbol{x}\)に対して、

$$q(\boldsymbol{x})\ge0$$

が成り立つとき、\(q\)あるいは\(A\)は半正定値であるという。

 

例えば、2次形式の標準形が

$$q=2y_1^2+0y_2^2$$

である場合、\(y_1=0\)のときは\(y_2\)の値によらず\(q=0\)となる。ただし、この2次形式が負になることはない。

このように、常に0以上の値をとり、負にならない2次形式のことを半正定値という。

 

半正定値であるのときの係数は0以上であり、すなわち2次形式を表す実対称行列の固有値がすべて0以上である、ということができる。

対称行列の半正定値性は、非線形計画問題においてヘッセ行列を用いて関数の凸性を判定するためにも利用される。

 

負定値:\(q(\boldsymbol{x})\lt0\)

零ベクトルではない任意の\(\boldsymbol{x}\)に対して、

$$q(\boldsymbol{x})\lt0$$

が成り立つとき、\(q\)あるいは\(A\)は負定値であるという。

 

例えば、2次形式の標準形が

$$q=-2y_1^2-3y_2^2$$

のように係数がすべて負の値で与えられているとき、ともにゼロではない任意の\(y_1,y_2\)に対して負の値になる。

 

半負定値:\(q(\boldsymbol{x})\le0\)

零ベクトルではない任意の\(\boldsymbol{x}\)に対して、

$$q(\boldsymbol{x})\le0$$

が成り立つとき、\(q\)あるいは\(A\)は半負定値であるという。

 

例えば、2次形式の標準形が

$$q=-2y_1^2+0y_2^2$$

である場合、\(y_1=0\)のときは\(y_2\)の値によらず\(q=0\)となる。ただし、この2次形式が正になることはない。

 

不定値

正定値、半正定値、負定値、半負定値のいずれでもない場合を、不定値という。

 

例えば、2次形式の標準形が

$$q=-2y_1^2+3y_2^2$$

である場合、正の値も負の値もとる。


ここまでの内容を表にまとめると以下のようになる。

2次形式\(q(\boldsymbol{x})=\boldsymbol{x}^TA\boldsymbol{x}\)について、符号と\(A\)の固有値\(\lambda_i\)の関係

正定値 $$q(\boldsymbol{x})\gt0$$ $$\lambda_i\gt0$$
半正定値 $$q(\boldsymbol{x})\ge0$$ $$\lambda_i\ge0$$
負定値 $$q(\boldsymbol{x})\lt0$$ $$\lambda_i\lt0$$
半負定値 $$q(\boldsymbol{x})\le0$$ $$\lambda_i\le0$$
不定値 それ以外 それ以外

ただし、二列目の関係は非零である任意の\(\boldsymbol{x}\)に対して、三列目の関係はすべての固有値に対して成立する。

 

まとめページ

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