ここでは対称行列と反対称行列(交代行列)の間に成立する関係式を学ぶ。
まずそれぞれの定義を簡単に復習する。
その後、これらの性質として反対称行列の対角成分、対称行列かつ反対称行列である行列、任意の正方行列を対称行列と反対称行列の和に分解する公式について証明していく。
定義の確認
正方行列\(A\)、\(B\)はそれぞれ対称行列、反対称行列であるとする。
このとき
$$A^T=A,B^T=-B$$
が成り立つ。
対称行列と反対称行列の性質
問題を解きながら性質を示していく。
対称行列は転置によって元に戻ることを、反対称行列は転置によって\(-1\)倍されることを示せばよい。
(証明)
$$(A+A^T)^T=A^T+(A^T)^T=A^T+A=A+A^T$$
よって、\(A+A^T\)は対称行列である。
$$(A-A^T)^T=A^T-(A^T)^T=A^T-A=-(A-A^T)$$
よって、\(A-A^T\)は反対称行列である。
(証明終)
(証明)
反対称行列の定義式より
$$A^T=-A \to A+A^T=0$$
この式から、行列\(A\)の対角成分\(a_{ii}\)について次の関係式を得る。
$$a_{ii}+a_{ii}=0$$
したがって
$$a_{ii}=0$$
となり、対角成分は0である。
(証明終)
(証明)
行列\(A\)が対称行列かつ反対称行列であるとする。定義より
$$A^T=A,A^T=-A$$
なので
$$A^T=A=-A$$
$$∴A=0$$
(証明終)
正方行列の分解
任意の正方行列\(A\)は
$$A=\frac{A+A^T}{2}+\frac{A-A^T}{2}$$
によって対称行列と反対称行列の和に分解することができる。これが両者の和に分解する唯一の方法であることを証明せよ。
分解の可能性と一意性を示せばよい。
一意性については、2通りの表現ができると仮定した場合に両者が一致することを証明する。
(証明)
(ⅰ)\(A\)の分解可能性
行列\(A\)が、対称行列\(A_1\)と反対称行列\(A_2\)の和に分解できるものとする。すなわち
$$A=A_1+A_2$$
ここで、定義より
$$A_1^T=A_1,A_2^T=-A_2$$
に注意すると
$$A+A^T=(A_1+A_2)+(A_1+A_2)^T=A_1+A_1^T+A_2+A_2^T=2A_1$$
$$A-A^T=(A_1+A_2)-(A_1+A_2)^T=A_1-A_1^T+A_2-A_2^T=2A_2$$
となる。したがって
$$A_1=\frac{A+A^T}{2},A_2=\frac{A-A^T}{2}$$
(ⅱ)分解の一意性
いま、次のように2通りの分解が可能であるとする。\(B_1,B_2\)をそれぞれ対称、反対称行列とすると
$$A=A_1+A_2=B_1+B_2$$
このとき、次式が成立する。
$$A_1-B_1=B_2-A_2$$
左辺は対称行列、右辺は反対称行列である。これを満たす行列は零行列に限られるので
$$A_1=B_1,A_2=B_2$$
(証明終)
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