行列の指数関数の定義と計算例

行列の対角化およびn乗の計算を学んできたが、これらと関わりのある行列演算をもう一つ紹介しておく。

それは行列の指数関数と呼ばれるものである。

 

行列の指数関数は、通常の指数関数を行列に拡張したもので、微分方程式の解法にも用いることができる。

ここでは、行列の指数関数の定義と性質、そして具体的な求め方を紹介する。

行列の指数関数の定義

\(n\)次正方行列\(A\)に対し、\(e^A\)を次式で定義する。

$$e^A=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{A^k}{k!}=E_n+A+\frac{A^2}{2!}+\frac{A^3}{3!}+\cdots$$

ただし、\(A^0=E\)とする。また、\(e^A\)は\(\mathrm{exp}A\)ともかく。

 

この無限級数は任意の\(A\)に対して収束することが知られている。

この定義を見て気付くかもしれないが、\(e^x\)のマクローリン展開式と同じ形式になっている。

 

性質

行列の指数関数は次のような性質をもつ。

$$e^{P^{-1}AP}=P^{-1}e^AP$$

(証明)

\((P^{-1}AP)^k=P^{-1}A^kP\)なので

\begin{align*}
e^{P^{-1}AP}&=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(P^{-1}AP)^k}{k!} \\
&=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{P^{-1}A^kP}{k!} \\
&=P^{-1}\left(\sum_{k=0}^{\infty}\frac{A^k}{k!}\right)P \\
&=P^{-1}e^AP
\end{align*}

(証明終)

 

対角行列の指数関数は次のようになる。

対角行列\(D=\left(
\begin{array}{cc}
a & 0 \\
0 & b
\end{array}
\right)\)に対して、\(e^D=\left(
\begin{array}{cc}
e^a & 0 \\
0 & e^b
\end{array}
\right)\)となる。

(証明)

対角行列について

$$D^k=\left(
\begin{array}{cc}
a^k & 0 \\
0 & b^k
\end{array}
\right)$$

が成り立つ。

\begin{align*}
e^D&=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{D^k}{k!}=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{1}{k!}\left(
\begin{array}{cc}
a^k & 0 \\
0 & b^k
\end{array}
\right) \\
&=\left(
\begin{array}{cc}
\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}\frac{a^k}{k!} & 0 \\
0 & \displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}\frac{b^k}{k!}
\end{array}
\right) \\
&=\left(
\begin{array}{cc}
e^a & 0 \\
0 & e^b
\end{array}
\right)
\end{align*}

(証明終)

この性質を利用すると、対角化可能な行列の指数関数を求めることができる。後で例を示す。

 

行列の指数関数の微分について、次の関係がある。

$$\frac{d}{dx}e^{xA}=Ae^{xA}$$

(証明)

\begin{align*}
\frac{d}{dx}e^{xA}&=\frac{d}{dx}\left(E_n+xA+\frac{x^2A^2}{2!}+\frac{x^3A^3}{3!}+\cdots\right) \\
&=A+\frac{2xA^2}{2!}+\frac{3x^2A^3}{3!}+\cdots \\
&=A\left(E_n+xA+\frac{x^2A^2}{2!}+\cdots\right) \\
&=Ae^{xA}
\end{align*}

(証明終)

通常の指数関数の微分のように計算することができる。

 

演習問題

それでは、行列の指数関数を計算してみよう。

次の行列\(A\)の\(e^A\)を求めよ。

\[
A=\left(
\begin{array}{cc}
3 & 1 \\
-7 & -5
\end{array}
\right)
\]

計算の手順は以下の通り。

  1. 固有値、固有ベクトルを求める
  2. 変換行列および対角行列をつくる
  3. 行列の指数関数をとる

 

(解)

\(A\)の固有方程式は

\begin{align*}
|A-\lambda E|&=\left|\begin{array}{cc}
3-\lambda & 1 \\
-7 & -5-\lambda
\end{array}\right| \\
&=\lambda^2+2\lambda-8 \\
&=(\lambda+4)(\lambda-2)=0
\end{align*}

固有値は\(\lambda=-4,2\)である。

\(\lambda_1=-4\)に対する固有ベクトル\(\boldsymbol{x}_1\)は

\[
\left(
\begin{array}{cc}
7 & 1 \\
-7 & -1
\end{array}
\right)\boldsymbol{x}_1=\boldsymbol{0}
\]

より

\[
\boldsymbol{x}_1=\left(
\begin{array}{c}
1 \\
-7
\end{array}
\right)
\]

\(\lambda_2=2\)に対する固有ベクトル\(\boldsymbol{x}_2\)は

\[
\left(
\begin{array}{cc}
1 & 1 \\
-7 & -7
\end{array}
\right)\boldsymbol{x}_2=\boldsymbol{0}
\]

より

\[
\boldsymbol{x}_2=\left(
\begin{array}{c}
1 \\
-1
\end{array}
\right)
\]

したがって、変換行列\(P\)およびその逆行列は

\[
P=\left(
\begin{array}{cc}
1 & 1 \\
-7 & -1
\end{array}
\right),P^{-1}=\frac{1}{6}\left(
\begin{array}{cc}
-1 & -1 \\
7 & 1
\end{array}
\right)
\]

となる。

行列の指数関数の関係式から

$$P^{-1}e^AP=e^{P^{-1}AP}=\mathrm{exp}\left[\left(
\begin{array}{cc}
-4 & 0 \\
0 & 2
\end{array}
\right)\right]$$

したがって

\begin{align*}
e^A&=P\mathrm{exp}\left[\left(
\begin{array}{cc}
-4 & 0 \\
0 & 2
\end{array}
\right)\right]P^{-1} \\
&=\frac{1}{6}\left(
\begin{array}{cc}
1 & 1 \\
-7 & -1
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{cc}
e^{-4} & 0 \\
0 & e^2
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{cc}
-1 & -1 \\
7 & 1
\end{array}
\right) \\
&=\frac{1}{6}\left(
\begin{array}{cc}
-e^{-4}+7e^2 & -e^{-4}+e^2 \\
7e^{-4}-7e^2 & 7e^{-4}-e^2
\end{array}
\right)
\end{align*}

 

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